孤独な老人とサキュバス

文字数 1,275文字

ただいま〜
あぁ、おかえり、

ミルリンちゃん

買い物して来たんで、

ご飯つくっちゃいますね

いつも、すまないねえ
サキュバスのミルリンは、今

都会で独り暮らしをていた孤独な老人と

一緒に暮らしている。

ミルリンちゃんみたいな

若くて綺麗な娘さんに


こんな汚いボロアパートで

なんだかすまないんだけど

やだぁ、おじいちゃんたら、

いつもそれ言っている

いつも本当にそう思ってるんだよ
ミルリンちゃんみたいな

若くて綺麗な子なら


もっと、いくらだって

贅沢やいい暮らしが出来るだろうに

だってあたし、

おじいちゃん可愛くて好きなんだもん

それに、

あたしサキュバスだから


人間が考える贅沢には

あんまり興味がないかなぁ

ゆるふわ天然サキュバスのミルリン。

独自の価値観を持つ彼女のことを、

人間が理解しようというのも無理なのかもしれない。

あ、ご飯出来ましたよぉ〜
あそこの爺さん、

最近なんでもサキュバスと暮らしてるらしいじゃないの……

やだ、取り憑かれたんじゃないかしら
近所の噂好きな人間達は、

二人の生活する様に陰口を叩いていた。

財産があるようには思えないから、

遺産目当てじゃあないでしょうし

あんな年寄りから、

精気とか吸っているのかしらね
たまたまそんな会話が聞こえてしまうミルリン。
うーん……
もちろん、ミルリンは

老人から精気を吸ったりしていない。

そんなことをすれば、確実に死んでしまう。

あたし、ここに居たら、

おじいちゃんに迷惑かけちゃうかしら

なんでそんなこと言うんだい


そんなことある訳ないじゃあないか

ミルリンは偶然聞いてしまった

近所の人達がしてい噂話について、説明した。

なんて酷いことを言うんだろうね
そんなの、言いたい奴には

言わせておけばいいんだよ

でも……
ワシはね……
昔、経営していた会社が倒産して

多額の借金だけが残った

妻とも離婚して、

子供達とも離れ離れになって、

家族を失ってしまったんだ

それからはもう、

借金を返しながら、

その日を生きて行くのがやっとで

気がつけば、

もうこんな年老いてしまっていた

……
まぁ、人生の敗北者で、

大した人生ではなかったのかもしれない

それでも、今こうして、

ミルリンちゃんが一緒に居てくれることで

こんな人生でも、

まぁ、それなりに良かったのかもしれない

ようやく、そう思えるようになって来たんだよ
おじいちゃん……
老人の孤独死なんてものほど、

寂しいものはないからね

もうちょっとだけ、

先の短い老いぼれの、

人生の最期を看取ってはもらえんかね?

おじいちゃん、本当は

寂しがり屋さんだもんね

毎晩、おじいちゃんは

ミルリンに抱きしめられながら眠る。

本当に、すまないねえ
いつも、そればっかり
歳を取って、耄碌して来ると
複雑だったり、難しいことが、

分からなくなったり、出来なくなったりしてきてね

まるで自分が、

小さい子供の頃に戻ったような気にもなるんだよ

きっと、随分と

甘えん坊な子供だったのね

こうしてもらっていると


小さい頃にお母さんに抱きしめてもらったことを思い出すんだよ

ミルリンがおじいちゃんに見せる夢は、

淫夢ではなく、幼い頃の原体験、

母の胸に抱かれて眠る安らぎ。


そして、ミルリンのふくよかな胸は

母性の象徴でもあるのだ。

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