渡来人の末裔

文字数 1,677文字

まぁ、とりあえず

アイリン

ニンジャマスターに緑茶を出すと、

テーブルを挟んだ向かいの席に腰掛けた。

やはり、こちらの緑茶は

最高でござるな

拙者の遺伝子が

そう言っているでござるよ

で、なんなんだい?

あたしに話ってのは

それが……

拙者の相棒同然でもある

ソードマスターのことでござる

どうかしたのかい?

移民が決まった時、あんた達二人とも、

遠いご先祖様の故郷で暮らせるって、

喜んでいたじゃあないか

異世界人である

ニンジャマスターと

ソードマスター。

彼等の遠い先祖は

この世界の日本人であり、


戦国時代の頃、人間世界から

異世界に召喚されて転移して行った

武士や忍者達の末裔。

何故そんな時代に日本人が

異世界に転移したのかは定かではないが、


愛倫(アイリン)が居た異世界では

そうやって他の世界から

渡来した者達が一定数おり、


そうした者達は

渡来人(とらいじん)と呼ばれていた。

それが今回の異世界人の移民により、


渡来人の子孫が

今度は異世界から日本に戻って来ることになった。


いわば彼等の血筋からしたら

逆輸入のようなもの。

それが……

しばらく行方知れずになっていて

拙者もしばらく会えていなかったので

事情がよく分からないのですが……

何でもこの世界で

マフィアの用心棒になったらしく……

マフィアの用心棒!?

思わぬ展開に愛倫(アイリン)

驚きを隠せない。

是非、愛倫(アイリン)殿に


マフィアの用心棒を止めるよう、

ソードマスターを

説得していただきたいのでござるっ

深々と頭を下げたニンジャマスターは

勢い余って客席のテーブルに頭をぶつけた。

ちょ、ちょっと待っておくれよ

あたしも移民仲間の為に力を貸すのは

やぶさかではないんだけどね

今この世界のマフィアと関わるのは

あまりいいことじゃないと思ってるんだよ

普段は情に厚い愛倫(アイリン)

今度ばかりは二の足を踏む。

そこをなんとかっ、

お願いするでござるっ

いや、でも、ねえ……

ここでマフィアと関わったら、

今後マフィアと移民局の両方から

目を付けられるなんて事態は想像に難くない。

愛倫(アイリン)としては、

この世界で最も関わりたくないものが

ジャパニーズマフィアでもあった。

今はまだこちらの人間を

殺したりしてはいないようでござるが、

それも時間の問題

もし一度でも

こちらの人を(あや)めてしまったら、

もう引き返すことは出来ないでござる

日陰者として生きて行くしかなくなるでござる
まぁ、こっちの世界は

あっちとは事情が違うからね

この通りでござるっ

ニンジャマスターは今にも

ジャパニーズ土下座を全力で披露しそうな程に

頭を下げ続けている。


ニンジャマスターの頼みに

困り果てている愛倫(アイリン)だったが

(あね)さん、

真剣に悩んでるとこ

なんなんですけど……

こいつ等すっかりその気になってますよ

その場に居合わせ話を聞いていた

他のサキュバス達は

大いに浮かれて盛り上がっていた。

私、一度マフィアに

会ってみたいと思ってたのよ

反社会的な人達なんでしょ?

きっと魂もいい感じに腐ってて

美味しいに違いないわっ

いやぁん、

腐った魂美味しそう~

超楽しみ~

ニンジャマスターも

ここぞとばかりに責めて来る。

まぁ、みなさん、

こうおっしゃてることですし

ここは一つお願いするでござる

これでは一人真剣に思い悩んでいた愛倫(アイリン)

まるで馬鹿みたいではないか。

もうっ!

あんた達は一体何だってんだっ

愛倫(アイリン)は一人でやきもきしていたが、

この集団ではいつものこと。


最年長サキュバス、愛倫(アイリン)の苦労は絶えない。


さらにニンジャマスターは

おもむろに床にうつ伏せになり

寝転んで頼み込む。

この通りっ、お願いでござるっ
その奇妙な行動に戸惑う愛倫(アイリン)
愛倫(アイリン)殿は知らないのでござるか?

これはこの世界で

土下座を上回る究極のお願いの仕方、

土下寝(どげね)でござるよ

また、冗談を

嘘か本当か見抜けない被害者が

ここにも出てしまった。

しかもそれをドヤ顔で

広めてしまうという。

そ、そうなのかい?

結局、周りの後押しもあって

ニンジャマスターの頼みを

断り切れなかった愛倫(アイリン)


マフィアの用心棒となった

ソードマスターを説得する羽目になる。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色