無数の屍によって 、築きあげられて来た世界

文字数 1,757文字

じいちゃんの好きな酒、

また一緒に飲めて嬉しいよ

……ヒロト
そろそろなぁ、じいちゃん

戻らないといけねえみてえだわ

そっか
じゃあ、仏前と墓前に

じいちゃんの好きな酒

お供えしておくからさぁ


あの世でも飲んでよ、酒

ヒロト、おめえは

馬鹿でチャラいけど、

すげえいい奴なんだよな

だから、じいちゃんは

おめえのことが大好きなんだよ

あはは、

じいちゃんの孫だからね……

じいちゃんに似ちゃったかな

俺もじいちゃん大好きだからさ
お盆にはまた家に帰って来てよ
茄子の馬と

きゅうりの牛、

つくっとくから

それ、逆だけどな
まぁ、この際

馬鹿には目をつぶりましょうよ

そろそろ、時間みてえだから

俺行くわ

今、お前、どこにいるんだ?

よく分かんねえんだけと


なんか、

魂を浄化するとか言ってたなぁ

あぁ、薬物中毒患者の更生施設みたいな感じか

もうクスリなんか二度とやんなよ


生まれ変わった気になって

頑張るんだぞ

うん……

生まれ変わるぐらいの気持ちで

やり直すわ

やはり、

ばあさんのいれてくれたお茶は

美味いな

そうですか、

よかった

しかし、そろそろ、

戻らなくてはならないようだ

おじいさん……
……また、お盆になったら

戻って来るからな

待ってますからね
くれぐれも

体には気をつけてな

無理をするんじゃあないぞ


体を、体を大事にするんだぞ

おじいさんも

無理しないでくださいね

じゃあワシも

そろそろ行くかのう

心配してくださって、

ありがとうございました

なんのお構いも出来ませんで、

すいません

この家を、本家を継いで

一族をまとめるというのは、

重圧もあるだろうが

困ったことがあったら

なんでもいいから、

墓前に相談に来い

はい

なに、そんなに難しく考えることはない

心配もせんでいい

ワシがこの家を、

一族の者達を守ってやるから


お前達の守護霊としてな

ありがとうございます、

ご先祖様


じゃあ、約束通り
こいつの魂は
こちらでもらっていくぜ
……
もともと、そちらの出身者だしな

まったく問題はない

これで神への

いい手土産が出来た

今回は俺達の手柄ということにしておこうぜ
そうすりゃ、神も

俺達のことを見直してくださるだろう

あんた達、

そんなことばかりしてると、

また堕天させられかけるよ


さて、こっちの

孫娘のほうなんだけどね……

……
そうですね、このままですと

また密入国扱いで、強制送還でしょうし

移民申請してもらうにしても、

認可されるまでには

時間がかかるでしょうね

まぁ、そうだろね、

そういうところはイマイチ

融通が効かないからね、ここは

いやぁ、面目ない
そういうことであれば、

どうだろう……

しばらく私が、この娘を

預からせてもらうというのは

この子は、間違いなく

ただならぬ才能を持っている

もしかしたら、

いい死神になれるかもしれん

もちろん、この娘の

気持ち次第だがな

あぁ、こりゃ、

さっきは適当なことを言っちまったかね

こっちの世界の多神教じゃぁ


人間でも死神になれるのかい?

今の時代、

死神は神というよりも


魂魄術を使う者達の

総称のようなものだからな

それに、道具などの物ですら

長い年月を経れば

付喪神になってしまうのが


ここ、日本の特徴ですから


八百万の神々の国なので

ロマンジィン・ズウォーカーも

こっちの世界で

死神に弟子入りでもしていれば


神々の末席ぐらいにはなれたのかもしれないねえ

……
で、お嬢ちゃんは、

どうするつもりだい?

……はい
神になろうとした

ご先祖の夢、願い、想い……

私もまた、その想いを

引き継ごうかと思います

もちろん、

ご先祖とは違う方法で

死神様、

どうかよろしくお願いいたします

うむ
本来はそうやって

紡がれていくものだからね……

あたし達よりはるかに

寿命の短い人間達は

後続に想いを託して

その想いは連綿と引き継がれていく……
そうやって

紡がれて来たのが


今のこの世界ってことだからね

あたし達みたいな

やたら寿命が長くて


個の力だけで

なんとかしようって連中には


こんな世界はつくれやしないよ、きっと

そうした先人達を屍と呼ぶのなら


この世界は無数の屍によって

築きあげられて来たようなもんだよ

そんなこの世界が

あたしは好きなんだけどね


遠い昔にどこかで会ったことがあるような

そんな懐かしい人達と再会した、うたかたの邂逅。


それから、しばらくの間は、

そんな体験をした者達ばかりではなく、


世の中全体がまるで何かを突然思い出したかのように

人々は先祖の墓参りへと足を運んだ。


それもまた死神が使った能力の余韻なのかもしれない。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色