悪魔の侵攻、物量作戦

文字数 2,267文字

ウゥッ
――おかしい
愛倫(アイリン)は異変に気付く。

その場に居た最後の悪魔を

両手に握る二刀の剣で切り倒し、

悪魔の返り血で全身血まみれの愛倫(アイリン)


人間相手には躊躇(ちゅうちょ)する彼女も

悪魔相手には容赦がない。

この船に乗っていた下級悪魔は

これでほぼすべて倒したはず……

しかし遠くに感じる悪魔の気配は

無くなるどころかむしろ増えている

悪魔の増援が次々と

船内に進入して来ているということかい?

悪魔が海から来るとは考えづらい


かと言ってこの大群が空から来ているとも思えない

そもそも論で言うと


この世界で今まで全く影も形もなく、

音沙汰もなかった悪魔が


ここにこれ程居るのがおかしい

愛倫(アイリン)はそのことに疑問を感じていた。

いずれにせよ、このままでは

救出部隊との陽動作戦が失敗に終わる可能性もある

すべての悪魔を自分に引き付けるという

役割だけは果たさなくてはならない

意識を集中させて、今現時点で

悪魔の気配が密集しているポイントを

探り当てる愛倫(アイリン)

慎さん、あたしは

ちょっと下に降りるから


後でゆっくり来ておくれよ

え?

そう言うと愛倫(アイリン)は自らの拳を床に叩きつけ、

それの衝撃で大きく空いた穴から

船内の下の階へと降りて行った。

慎之介が空いた穴を覗き込むと、下の床までは

マンションの二階以上の高さがありそうだ。

こりゃ、階段で行くしかなさそうだな……


いや……まいったね

悪魔の気配が密集している場所に辿り着いた

愛倫(アイリン)は愕然とする。

……
……
……
こいつら、やらかしやがった

侵攻する悪魔達の背後、

船の内壁には巨大な紋様が描かれている。

まさか、

あっちとこっちを繋げちまうとはね……

愛倫(アイリン)が目にする紋様こそが

悪魔の力により生成された

あちらの魔界とこちらの世界を繋ぐゲート


そこから次々と下級悪魔達が

今まさに送り込まれて来ているのだ。

……
……

ゲートの現出など

そう簡単に出来るものではない。


今回の事件、背後の黒幕には

最高位レベルの悪魔がいるということだろう。

こりゃあ、ちょっと

死ぬ気でやらないとダメかもしれないねえ

グォッ
グワッ

それからはただひたすら

目の前に居る下級悪魔の大群を

撃ちまくり斬りまくった愛倫(アイリン)

アウッ

どれぐらいの時が経ったのだろうか、

時間密度が濃すぎて愛倫(アイリン)には

それすらもわからない。

永遠なのかもしれないし

一瞬なのかもしれない。

ハァッハァッ……

悪魔の返り血を浴び、血にまみれた女、

ハァハァと息を切らせ肩を揺らしている。

もう銃を出すことは出来ない、

残された武器は

右手に握る一振りの剣と背中の羽根だけ。

自らの魂の一部や霊力、

生命エネルギーで武器を生成する愛倫(アイリン)

エネルギー残量がそのまま武器の残存数に直結する。


つまりは愛倫(アイリン)のエネルギーは

もう既に残りわずかということに他ならない。

――せめて

別働隊の救出が完了するまでは、

悪魔達にここを通させる訳にはいかない

それまで持ち堪えることが出来れば


悔しいが上手くいけば

逃げ切ることは出来るかもしれない

あっちの世界ではいつもこんな戦いが

果てしなく続くだけだった……

おいおい

だが愛倫(アイリン)の覚悟も虚しく、

他の下級悪魔とは明らかに異なる気配が

ゲートから出て来たのを感じる。

お前ら、いつまで

こんなサキュバス如きに手間取ってんだ?

もう明らかに息切れしてんじゃねえか

おそらくは下級悪魔達の指揮官に相当するだろう

中級レベルの悪魔。

舌打ちする愛倫(アイリン)

目論見は上手くいきそうにない。

ちっ……

あんた達、悪魔の癖に、

まるで規律正しい軍隊みたいじゃあないか

指揮官の指示に従い

統制の取れた悪魔というのは似合わないが、

これ程厄介なものもない。

お前あれか、

レジェンド級サキュバスとか言われてる奴か


戦闘タイプのサキュバス……

確かアイリンとか言ったかな

そのレジェンドもエネルギー切れじゃあ

どうしようもないみたいだな

中級悪魔は馬鹿にしたように笑う、


弱っている者をいたぶるというのは

清々しいぐらいに悪魔らしい。

そうだな、

俺も名前ぐらいは教えてやるか

いや、やめておくれよ

(さら)って喜んでるような

下衆(げす)の名前なんて知りたくもない

あんた中級悪魔だろ?

中級下衆(ちゅうきゅうげす)って呼んであげるよ

虚勢を張るような状況ではないが、

それでも強気に相手を挑発する愛倫(アイリン)

おいおい、

そんな挑発なんかには乗らねえぜ


ミエミエなんだよお前の狙いは

そうここで挑発に乗って

自ら突っ込んで来てくれるようなら

まだワンチャンス可能性はあった。

間合いに入ったところをバッサリ、だろ?

これ以上のエネルギー消耗を避けるため

愛倫(アイリン)は自ら動くのをやめていた。


自らの間合いに入っ来た者だけを叩き斬るカウンター、

それが愛倫(アイリン)の最後の手段。

おい、人間の武器持って来い


確かマフィアが機関銃を大量に積んでた筈だ

魔力で強化して撃ち続けてりゃ

あいつは時期にくたばる

――やはり、指揮官クラス

そう簡単にはいないか


じゃあ代わりに一つ教えておくれよ

今回の黒幕はディアブロなのかい?

これまで以上に険しい顔している愛倫(アイリン)

さすが、レジェンド同士、

よくその名前が出て来たな

突然その名前が出て来たことに

驚きを隠せない中級下衆。

まぁ、あいつには逆らえねえからな

こちらの世界では

スペイン語で悪魔の意味を表すディアブロ、

その名を冠する程の最高位レベルの悪魔。

あちらの魔界とこちらの世界を繋ぐ

ゲートですらつくり出す程の力を持っている。

そして愛倫(アイリン)とは少なからず

縁が無い訳ではない。

……
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