ヴァンパイアと外来種

文字数 2,140文字

どうしてこうなった!?
せっかく異世界に里帰りして来たというのに……

ヴァンパイアは、実家とも言える古城の窓から外を覗く。

――なんでこんな多勢の人間達が城の前に詰めかけているんだ?

昼間だというのに

松明を手にした者達もいる……


まるでこれから城に火でも放ちそうな勢いじゃないか……

ガシャンッ!!

人間が投げた石が

城の窓ガラスを突き破る。

――ちょっ! ちょっと!


あ、危ないじゃないかっ!!


危うく当たるところだった……

……これまで

近隣住民の人間達とは


穏やかな話し合いにより

揉め事は避けて来たというのに


どうしてこうなったのか、

皆目検討もつかん……

慌てふためき外へ飛び出すヴァンパイア。

落ち着いてっ!

みなさん、落ち着いてくださいっ!!

――い、いかん……


今にも袋叩きにされそうな

殺伐とした雰囲気……


アンデッドなので

死ぬということはないが、

それでも痛いのは堪らん

なんとか宥めて

対話へと持ち込まなくては……

一体、どうしたんですか!?

これまで平和的に

共存出来ていたじゃないですか?

何が共存だっ!

あんな蝿みたいな

小さい使い魔を使って


俺達から血を集めるような真似しやがって!

お陰でこっちは五月蝿くて


夜もオチオチ寝てられないじゃないかっ!

あんたが戻って来てから


あいつ等が出て来るようになったのよっ!

あんな、

人間の血を吸うような使い魔


あんたじゃなければ、

一体誰の仕業だって言うんだっ!

――集まった人間達は

口々に文句を言っているが


俺からしてみれば

一切身に覚えがない


なんたる濡れ衣だ

だが苦情の内容自体には

なんだかとっても覚えがある……

うーん、なんだか

人間世界で似たような経験をした気が……

まさかこちらの異世界で

人間世界の蚊が大量発生しているとは、

ヴァンパイアでも思いつかない。


ヴァンパイアが帰省する際、

体や衣服についていた数匹の蚊が

一緒にこちらの世界に渡って来たのだ。


蚊は異世界の環境にも問題なく適応し、

あっという間に数を増やして

人間の血を求めて飛び回るようになっていった。

押し寄せた人間達とヴァンパイアが揉めていると……。

なっ? なんだ?

――空から何やら

得体の知れない圧力を感じる

空気中から物凄い振動が伝わって来る


しかも途切れることなく継続的にだ

空気振動によって周囲を、大地を

激しく揺らしている

プゥゥゥゥゥーーーーーン
――この羽音、

どこかで聞いたような……

耳障りな羽音が大音響で


空気と大地を震わせながら

こちらの方に近付いて来ている

おい、なんだこの音は
いやぁっ! 気持ち悪いっ
ダメだ、気分が……

その場に集まっている人々は、堪え切れずに耳を塞いで苦痛に顔を歪めた。

――この空を飛ぶ音は……


まるで超音波兵器か何かのようではないか

…………ん?


空が急に暗くなったな……

ヴァンパイアが見上げるとそこには、

地上に大きな影を落として

空を覆い尽くさんばかりの巨大な蚊の姿が……

ば、馬鹿な!


何故、あっちの世界の蚊とかいう奴がこんなところにっ!


しかもこんなにデカくなって!

人間世界で蚊を見ていたヴァンパイアにはそれが巨大な蚊であることは分かったが


異世界の住人からすれば、それはただの新種のモンスターにしか思えなかった。

クソッ!

あれもお前の仕業かっ!?

血を吸う小さいお前の使い魔に

そっくりな見た目をしているじゃないかっ!

――ちょっと待て……


こちらの人間達の間では

もはや蚊はヴァンパイアの眷属


俺の使い魔ということになっているのか?

いや、そんなことより……

異世界にやって来た蚊が


こちらに生息している

巨大モンスター達の血を吸いまくった挙句


自らも巨大化を果たした??

プゥゥゥゥゥーーーーーン

――血を吸うための、

あの長く尖った口の針も


このサイズになるともはや悪夢でしかない……

キャァァァァァッ!!
ウワァァァァァッ!!

――巨大で先鋭な太い針に、人間達が串刺しにされたっ!?

プゥゥゥゥゥーーーーーン
ギャァァァァァッ!!

――血を吸われた者は

一瞬で体が干からびて


即身仏のようなミイラになっているではないか!?

プゥゥゥゥゥーーーーーン
――とりあえず

ここに居ては危険だ


もう身の潔白を証明するなんて

言っている場合じゃあない


今はとにかく逃げるしかない

人間世界で蚊に刺されたぐらいなのだから、


この巨大な蚊に血を吸われても

全く不思議なことじゃあない

プゥゥゥゥゥーーーーーン

――血を吸うことで

人間達に怖れられていた自分が


血を吸われることを

怖れなくてはならいなどとは

夢にも思っていなかった……


これでは、すっかり立場が逆転してしまっているではないか……

まさか、

血を吸われるということが


これ程までに恐怖を感じることだったとは……

またしてもヴァンパイアは反省会を開くのだった……。

命からがら、なんとか逃げ切ったヴァンパイア。

――こちらの世界に居ても

もう責任逃れすら出来そうもない……

人間世界に戻るしかないか……

ヴァンパイアは夜逃げでもするかのように

人間世界へと戻ることに。

――あの後、

あの巨大な蚊がどうなったのか……


結果が恐ろしいことになっていそうので、それすらも知りたいとは思わない……

まさか異世界が消滅する原因って

アレじゃあないだろうな……

ま、まぁ、おそらくアレは


勇者か魔王かギルドの冒険者達が


きっと退治してくれるはずだから……

もうあっちの世界には

二度と帰れねえな、こりゃ……

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