勝負のルール

文字数 1,883文字

夜闇に対峙する

ソードマスターとサキュバスの愛倫(アイリン)

(それがし)に、

この世界での居場所はない……

一応の説得はする愛倫(アイリン)だったが、

ソードマスターは

その言葉に耳を傾けようとはしない。

ソードマスターの名を持ちながら、

ソードを剥奪されたこの屈辱、

愛倫(アイリン)殿には分かるまい……

ソードマスターの決意は固い。
あんた、モテないだろっ?

例え、

ソードマスターと言う名前だろうと


武器がなきゃ何も出来ないような男に

女は惹かれたりしないもんさ

やれやれといった表情の愛倫(アイリン)

まぁ、いいさ、

はじめから説得出来るなんざ、

思っていなかったからね

その為にこんな物まで

事前に用意して来たんだからさ

愛倫(アイリン)の両手には

青白く光る透き通った刃が握られている。

力に頼って生きている者は

力でねじ伏せるしかない


それがあっちの世界での

暗黙の了解だったしね

あたしと真剣で勝負しな、

ソードマスター

右手に持つ刃の切っ先を

対峙するソードマスターに向ける愛倫(アイリン)

もしあたしが勝ったら、

大人しくあたし達と一緒に帰ってもらうよ

まぁ、もっとも


あの()達の方が

いつ帰る気になるか

分かったもんじゃないけどね

屋敷からは、

大いに盛り上がっているのがすぐに分かる程の

乱痴気騒ぎの声が聞こえて来る。


どうやら全員で野球拳をはじめたようだ。

まったく、こっちが

命張ってんのにいい気なもんさね

愛倫(アイリン)はため息をつく。


もしあんたが勝ったら


この先はあんたの

好きなように生きたらいいさ


もう止めやしないよ

自由を手にするには、

それなりの代償ってもんがいるのさ

あんたが今まで知り合った

仲間や友人、その他諸々の関係者


(えにし)もしがらみも絆も

全部ぶった切って


一人で自由に

自分が思ったように生きて行く

今あんたがやろうとしているのは

そういうことなんだからね

ここであたしとの(えにし)

見事にぶった切ってみせてご覧よ

しかし、(それがし)

いくら力に生きる者であっても


恩ある愛倫(アイリン)殿を無闇に

真剣で斬る訳には参りませんな

この世界に移民して来るに当たって、

ソードマスターもニンジャマスターも

愛倫(アイリン)から助力を得ていた。


ソードマスターからすれば

恩ある相手でもあるのだ。

あぁ、

そこは気にしなくていいよ

あたし達サキュバスは

魂が本体みたいものだからね


肉体の傷なんてどってことはないのさ

魂さえ無事なら

すぐに治っちまうんだよ

愛倫(アイリン)の言葉が嘘か本当か

ソードマスターには分からなかったが、


人型から蝙蝠の姿に変身出来る

身体構造を考えてみても

外傷がすぐに治っても不思議ではない。


そして、あたしは

この二刀を遣わせてもらうよ

愛倫(アイリン)の両手に握られている

二振りの刀剣、

見た目は日本刀に酷似しているが、

長さは一メートルを優に超える大太刀(おおだち)

この刀はあたしの魂で出来ていてね

あたしまで

銃刀法違反なんてやらかした日にゃ

愛しい慎さんに顔向け出来ないからね

ワザワザこの為に準備して来たんだよ

この刀であんたの

魂を斬らせてもらうよ

魂に深手は負うかもしれないけど、

まぁ死ぬことはないだろうよ

さしずめ『斬魂刀(ざんこんとう)』と

言ったところかね

あんたの肉体は斬れないけど、

ちゃんと剣で受け止めることは出来るから


そこは安心してくれていいよ


真剣で勝負するけど、

お互いの命までは奪わない


ちょうどいい

ルールなんじゃあないかい?

しかし、いくら愛倫(アイリン)殿と言えど


剣で(それがし)と勝負というのは、

いくらなんでも無謀と言うもの

そうかい?


こんな夜の闇が多いような場所で

勝負だって言うのに


あんた随分と余裕じゃあないか

確かにこの屋敷、

夜間照明はそれなりにあったが、

それも一部であり、死角は多く、暗闇も多い。

ソードマスターとて

夜には灯りが無くなる異世界出身ではあるので

闇夜には慣れていたが、


夜目で夜行性のサキュバスに敵うものではない。

それにこのあたしの刀は

あたし自身を斬ることはないんだよ


なんせあたしの魂で出来てるんだから

つまり、体の中から突然

剣が飛び出して来るなんて可能性もある

なるほど、軌道予測が不可能……

初見殺しという訳ですな

そういうことさ


結構いい勝負になるんじゃないかと

あたしは思ってるんだけどね

通常であれば、使い手自身を傷つけないように

刀の動きや軌道はある程度制限されるものであるが、


それがないということは

剣筋の軌道に制限が無いに等しい。

それにあんた知らないだろ?

なんであたしがこんな喋り方なのか?

愛倫(アイリン)は自信たっぷりに

口角を上げて笑みを浮かべる。

あたしゃね、この世界の、

時代劇の大ファンなんだよ

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