失踪した七名の人魚たち

文字数 1,413文字

魚人族が移民したあの村から、

ある日突然七名の人魚の姿が消えた。


彼女達は今もなお行方不明のままだと言う。

愛倫(アイリン)と慎之介は先日訪れたばかりの漁村を

急いで再び訪れることになる。

……
……

前回とはまるで異なり険しい顔をしている愛倫(アイリン)

ピリピリしているのが

慎之介にも手に取るように分かった。

移動中、改めて状況を確認する慎之介。

可能性として、

本人達の意思による失踪、事故、事件


三つが考えられると思いますが……

まず本人達の意思による失踪の場合……

先日の視察での様子を見る限り


とても失踪する原因となるような

不満があったとは思えません

しかも七名という大人数で


いきなり集団家出のような真似をするというのは、考えにくいのではないかと……

あの後、村の人達との間に

何かトラブルが発生して


それが原因で嫌気(いやけ)が差して

村を出て行ったという可能性も

ゼロではないでしょうが……

それでも他の魚人族の仲間達に

一言も何も言わずに突然消えるとは思えません

……
次に事故の可能性ですが……

もし彼女達が

海難事故にあっていたとして


人魚ほどの水中適性を持った生命体が、

七名全員みな死亡するとも思えません

生存者が一人ぐらい居ても

おかしくないのではと思えるのですが


その辺りはどうなんでしょうか?

そうだね、

まず人魚が海難事故と言うのは


猿が木から落ちるよりはるかに難しいだろうね

水中に巨大水棲生物でも居て、

まぁクジラとか巨大ザメとか


そんなのにいきなり

食われたとかでもない限り


海難事故で死亡するなんてことは

有り得ないだろうね


ましてや七人も一遍(いっぺん)

となると、

やはり事件ということになりますが……

これも疑問が残らない訳ではないんです

もし仮に誘拐などの事件だったしとして


七名を一度に誘拐するというのは


かなり大掛かりな組織の犯行ということになります

いくらあの村が過疎だと言っても


そんな大人数が村に侵入して来たら

気づく人もいるのではないかと思うのですが

いや、慎さん、そうとも限らないよ

この間見た限り、

人魚の家は海岸線にあったからね


まぁそりゃ人魚は

もっとも水が必要なタイプだから


当然そうなるんだけどね

ああ、なるほど、

海路から侵入するということですか

異世界でも、

人魚ってのは誘拐されやすくてね

見た目華やかで美しい


それで(おか)に上がると

それほど機敏には動けない


(さら)い易く、逃げられにくい

誘拐犯からすれば

これ程楽な相手はいないからね


格好のターゲットにされちまうのさ

あたしは、間違いなく誘拐だと思っているんだけどね

苛立(いらだ)ちを隠せない愛倫(アイリン)


しかしこの時はまだ慎之介も、今回の事件が

愛倫(アイリン)の最大の地雷だとは全く知らなかった。

漁村についた愛倫(アイリン)と慎之介


あれからわずか数日しか経っていないというのに、

村からは明るさが消え、

暗い雰囲気に包まれているように見える。

そうですねえ……
うーん……
いや、まったく……

この数日で村人と人魚達の間で

トラブルなどが無かったか、

魚住さんや魚人族の者達から話を聞く慎之介。

……

一方で愛倫(アイリン)は空から気配を探る。

それは人魚達の気配ということではない。

あの時、守秘義務と言っていたシャドウ
今回の事件に関する何かを間違いなく知っている筈
愛倫(アイリン)は後悔していた。

あの時、シャドウをもっと問い詰めて、

あいつが持っている情報を聞き出していれば

もしかしたら今回の事件を

未然に防ぐことが出来たのかもしれない

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