この世界に愛を告げるサキュバス
文字数 1,722文字
案の定、次の日、慎之介は
彼女がそばに近寄って来ても、
それとなく移動して距離をあけてしまう。
そもそも恋愛経験の一つもない慎之介が
この複雑な感情に対処するのは
無理というものなのかもしれない。
その日は必要以上に
言葉を交わすこともなく
どこかギクシャクしたままで終わってしまった。
その夜、浜辺に打ち上がった流木に腰掛け
一人で夜空の星を見上げる慎之介。
いつの間に近づいて来たのか、
そんな慎之介の横にそっと座る
そしてこの人はこういう
他者のちょっとした機微にもよく気づく。
そこにはとても千年も生きているとは思えない
まるで無垢な少女のような面影が再び見える。
もし本当に
そんな時が来たのなら、
この人はずっとこんな笑顔を見せてくるのだろうか。
夜空の星を見上げる
その光は彼女が生きて来た
千年をも遥かに越える数億年前の星の輝き。
時折、
それは千年もの間、
なんとなく慎之介はそんな気がした。
金権主義というのはとかく批判もされがちだが、
殴り合って、殺し合って、命を奪い合う、
そんな力が支配する仕組みよりはよっぽどマシ、
そういう発想もあるのかと慎之介は思う。
ここの人類ですら
繰り返される闘争の歴史に
嫌気がさしているというのに、
異世界から来た異邦人には
少しでも前に進んでいるように見えるのだろうか。
比較対象が異世界ならば、こちらの世界も
少しはマシに見えるものなのか。
慎之介は思う
これはもう自分と
こちらの世界の人間という種族が
異世界のサキュバスという種族から
熱烈に愛の告白をされているようなものではないかと。