ヴァンパイアとチャラ男

文字数 1,987文字

――しかしなんだな……


チャラ男とは

バイト先のコンビニで

夜勤のシフトが一緒になることが多いから


週五ぐらいのペースで、いっつも会ってるな

俺も今でこそ

多少なりともそれなりに


まさしく人並みに、

人間と同様の生活を送っているが


ここに至るまでにはそれなりの苦労もあった……

一時は金が無さ過ぎて


血液銀行に

血を売りに行こうとしたこともあったな

『ヴァンパイアが血を売ってどうすんだ?』とか


『ヴァンパイアの血を輸血して、ヴァンパイアになったらどうすんだ?』とか言われて


結局やめたが

仕事を探していた当時


昼間の強い日射しには耐えられないから


当然ながら夜の仕事しか選択肢が無かった

夜でも、出来ることならば

明るい場所より

暗めの部屋の方が望ましい

そこで最初は、

葬儀社関連の遺体安置所で

夜間警備の仕事をしていたが


さすがにアンデッドが

遺体安置所の警備員では

ブラックユーモア過ぎて洒落にならなかった

夜な夜な、

遺体安置所にある遺体を使って

何か良からぬことをしているのではないか……


職員達の間でそんな根も葉もない噂が囁かれ


さすがに居づらくなって辞めてしまった

何か自分に合った良い職業はないかと


夜の繁華街を歩いていると


ちょうどホスト募集の貼り紙があったので


その足でそのままホストクラブを訪れた

採用試験に即合格、


すぐにでも働いて欲しいと言われたので、その日の内からホストクラブで働きはじめる……

それからあっという間に

店のナンバーワンの座を獲得

種族特性として

人間の女を虜とりこにすることに長け


元の世界では水の代わりに

ワインを飲んでいたから酒にも強い

そして、ホストクラブの店内は

ほどよく暗く、明る過ぎない

さらには、

アンデッドであり

ほぼ不老不死のため


見た目が劣化することもなく

永遠に美貌を保ち続けられる


まさにルックス売りの頂点に君臨するような種族だからな

まさに天職ではないかと


最初は自分でもそう思っていた……

しかしホスト同士の人間関係、

嫉妬や羨望、女性客とのトラブル


そんなことに嫌気が差し、

結局、その店も長くは続かず辞めてしまった……

それからというもの、


夜間工事現場などのバイトと

コンビニの夜勤で生活費を稼ぎ、


現在に至っている……

チャラ男は、

コンビニではじめて会った時から

俺に興味津々の様子だった

それもまた

ヴァンパイアの魅了という能力が


知らぬ間に発動していたのかもしれないが……

スゲぇ……

カッケぇ、マジカッケぇ……

若干頭がお花畑な天然キャラのチャラ男は


はじめて一緒に夜勤に入った日は

勤務時間中ずっとそう連呼していたな

ヴァンさんって呼ばせてもらっていいすっか?

俺の方がはるかに年上で、

チャラ男が舎弟体質だったこともあり


それ以来、今ではすっかり

友人のような存在だ

――今宵も、コンビニの夜勤シフトはチャラ男と一緒だな……

ヴァンさん、近々、

異世界に一旦戻るってマジっすか?

あぁ、異世界もまだ消滅しそうもないし


一旦帰って、身辺整理をしておこうかと思ってな

――異世界も消滅すると大騒ぎされてから、既に数年が経っているが


今のところはまだ何も起こっていない……

まぁ、まだ大丈夫だろうから


今のうちに一度異世界に里帰りしておくのもいいだろう

客が全く来ない深夜の時間帯、

退屈そうなチャラ男が喋り続けている。

自分、最近ずっと

夜勤ばっかりだったんで


生活がすっかり夜型になっちゃって困ってんすよ

昼間は太陽の日射しとかが

眩しくて仕方ないぐらいで……


夜型ぁ、マジ、パネぇ

それじゃ、まるで俺と一緒じゃないか

そうなんすよね


最近、赤い液体とか見ると

なんだかムラムラしてくるんすよ

ここしばらく

トマトジュースばっかり飲んでますし

この間なんか、

ケチャップのビン見たら


たまんなくなっちゃって

(ぢか)飲みで、一気飲みしちゃったんすよ

それはあれだろ、ほら


リコピンが足らなくて、

体がトマトを欲しているとか


そういう感じのやつだろ?

俺みたいなヴァンパイアじゃあるまいし

昨日なんか、

俺、車に轢かれたんですけどね

もうすごい、

三メートルぐらい跳ね飛ばされて


マジ痛てぇ! って一瞬思ったんすけど

でも全然体とか平気で

ぴんぴんしちゃってて

こマ? マジでヤバくない?

奇跡じゃね? って感じになっちゃって

俺、すごくないっすか?

そりゃまた、

アンデッドみたいな話だな

当たり方とか打ち所が

よっぽど良かったんだろうな

チャラ男の異変を聞いても

ヴァンパイアは全くピンと来ていない。


チャラ男の血など吸っていないから、身に覚えがないのも当然と言えば当然なのではあるが……。


ヴァンパイアの血を吸った蚊がヴァンパイア化して、次にチャラ男を刺したので、


間接的にではあるが、


チャラ男は知らぬ間に

アンデッドになっていた。



ただチャラ男もそんなことを一々

真剣に考える性格の人間でもなく


この先、本人もまったく気づかず


単なるトマトジュースとケチャップが大好物なタフガイとして暮らしていったので


それほど日常生活に支障はなかった……。


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