クソみたいなご先祖様

文字数 1,110文字

愛倫(アイリン)の誘導により、強烈な自己暗示にかかり、

隙のない強靭な鋼のメンタルと化した少女の魂


一方、激しく動揺した際に

心の乱れ、隙を突かれたロマンジィンの魂


両者の力関係は拮抗していた。

……あたしは、本当に

このまま生きていてもいいの?

あぁ、もちろんだとも
この世界風に言うならね
あんたには、

あんたの命を生きる権利があるんだよ

……あたしの命を、生きる権利

愛倫(アイリン)の言葉を繰り返すことによって、

娘の魂の自己暗示はさらに強くなって行き、

鋼のメンタルはより強固なものとなる。

ご先祖様の魂を犠牲にしてでも、

あたしが生き残ってもいいの?

そいつはね、もうとっくの昔に

生きる権利を使い果たしてるんだよ

なのに、他の人間から奪い続けて

生きながらえてるに過ぎないのさ

だからね、そんな奴には

こう言ってやるといいよ

『とっとと、くたばっちまえ、

このクソジジイ』ってね

『とっとと、くたばっちまえ、

このクソジジイ』?

そして、少女の魂が

鋼のメンタルの強度を増せば増すほど、

ロマンジィンの魂は追い詰められて行く。


魂の力関係、そのバランスは崩れて

一気に逆転したのだ。

ちょ、ちょっと、

待て、待て、お前ら

ロマンジィンの魂は既に

少女の魂と分離しはじめている。

千年以上もの長い歳月を経て

蓄積された人間の叡智と技能じゃぞ?

それが、どれほど貴重なものか

分からぬ訳ではあるまい!?

それを失うということが、

どれほどの損失だと思っているのだ

人間が神を超える

またとないチャンスなのだぞ

あぁ、そうかもしれないね
でもねえ、あんた


この世界じゃあ、

人の命より大切なものは無いって


そういうことになってるんだよ

そうだろ? 慎さん
ええ、間違いないですね
そんな、そんなのは、

ただの綺麗事ではないかっ!

そんな建前を真に受ける馬鹿がいるかっ!
馬鹿か!?

お前らは馬鹿なのか!?

あぁ、そうだね
でもね、とんでもなく

素晴らしい綺麗事じゃあないか

あたしゃね、この世界の

そういう青臭いところが

気に入ってるんだよっ!

人の命が軽過ぎる世界で、

ずっと心を痛め続けて来た愛倫(アイリン)にとって、

この世界でそれだけは絶対に譲れない。

ちょ、ちょっと、

待て、待て

きょ、今日はハロウィンなのだろ?
ハロウィンってのは、

先祖の霊を敬って、

迎え入れる日ではないのか?

まぁ、そりゃ、

仕方がないよ

あんたが

クソみたいなご先祖様だったって

ただそれだけのことなんだから

ハロウィンには不手際はないさね
いや、待て、待て
少女の魂と、ご先祖様の魂、

それが完全に二つに分かれた時。

……
死神の大鎌が、ロマンジィンの魂だけを

少女の肉体から切り離す。

な、なんということを!
ご先祖様……

ごめんなさい

それでも、私は、

生きてみたいのです


たった一度の生を……

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