フランケンシュタインは、おばあちゃんに恋をする

文字数 2,121文字

高齢化が進む一方の日本。


医療の目覚ましい発展は、

本来であれば寿命を迎える筈であった人間達を

無理矢理に延命させている、

そういうこともあるのかもしれない。


そして、そうした高齢者達を

介護する人材もまた圧倒的に不足していた。

介護というのは、まさしく重労働で、

人間一人の体重を常に支え続けなくてはならない。


異世界から来た移民者達の中にも、

そんな重労働にうってつけの

力自慢の人材がいるにはいた。


ただ彼にはいろいろと問題もない訳ではなかった……。

……
お、おわっ
異世界から移民して来たフランケンシュタイン。


本来、心優しい彼は、

その巨体と力自慢を活かして

人間達の役に立ちたいと思い、

老人ホームの介護スタッフとして働いている。

ひ、ひぃっ
……
だが、フランケンのその厳つい見た目は、

いくら異世界からの住人に慣れつつあった

こちらの世界の人間達と言えども、

すぐに慣れるものではなかった。

……
この仕事を続けていく自信を失っていた時に、

フランケンは車椅子に乗った

一人のおばあちゃんと出会う。


自力で車椅子を動かす筋力さえなくなった老婦人を

フランケンが担当することになったのだ。

まぁ、随分とたくましい方なのね


お名前、聞いてもいいかしら?

……フ、フ、フランケンシュタイン
あらぁ、

随分とかっこいいお名前なのね

でも、年寄りのあたしには

呼びづらいから


フランちゃんて、

呼んでもいいかしら?

……あ、は、はい
フランちゃん、

あたしの車椅子を押してくれて、

ありがとう

そのおばあちゃんは

フランケンの見た目を怖がることなく、

いつも優しく接してくれた。

外の風に当たりたいと言う

おばあちゃんの車椅子を押して

施設の敷地内を散歩していた時だった。

いつも車椅子だと視線が低くて、

まるで子供に戻ったような気分ね

その言葉を聞いたフランケンは、

両手でおばあちゃんの体をひょいっと持ち上げると、

自分の左肩の上に乗せてあげた。

あらぁ、すごい高いわぁ
フランちゃんは、

本当に力持ちなのね

……う、うん
このおばあちゃんは

自分のことが怖くないのか、

不思議で仕方がないフランケン。


これまで、傷つくことをおそれて

無口でシャイな性格になってしまった彼だったが、

思い余って、ついに聞いてみることにする。

……お、おばあちゃんは
……お、俺のことが、

こわくないのか?

あらぁ、どうして?
なんで、そんなことを聞くの?
み、みんな、

俺のことをこわがる

フランちゃんは、

力持ちで優しくて


とってもいい子じゃない

まだ、みんな、

フランちゃんのことを

よく分かってないのよ

い、いや違う……
お、俺は……俺が……


俺の見た目が(みにく)いから

い、いろんな人間の

体のパーツを寄せ集めて移植した

ツギハギだらけで

き、機械の部品だってあるし
か、体中が傷あとだらけで

気持ち悪いから

お、俺は、

見た目が気持ち悪いから、

人間にこわがられてしまう……

……
フランケンは、このおばあちゃんなら

自分に同情してくれるだろう、そう思っていた。


だが、おばあちゃんの反応は

フランケンが思っていたのとはちょっと違った。

フランちゃん、

そんなことを言ってはいけないわ

服のインナーを捲り、

自分の胸元にある大きな傷あとを見せる老婦人。

ほら、おばあちゃんにも

大きな傷あとがあるでしょ

少し前にね、

心臓の手術をしたのよ……

ペースメーカーという機械が、

私の体の中には埋まっているの

フランちゃんと

そんなに変わらないでしょ?

……
他にも、人工肛門とか人工膀胱とか


人工の臓器が無いと

生きていけない人は沢山いるし

亡くなった方からの

臓器移植を待っている人達だって

沢山いるわ

大怪我をして

体中が傷あとだらけの人だっているし

病気のせいで

何度も何度も手術をして、

傷あとだらけの人も居る

……
そういう人達が

さっきのフランちゃんの言葉を聞いたら

悲しい気持ちになるとは思わない?

異世界ファンタジーのことを

よく知らないおばあちゃんからすれば、


フランケンシュタインもまた

そうした移植手術などを受けた人間達と

何ら変わりはないのだろうか。


ただ他の人よりちょっと

回数が多かっただけだなのか。


そして実際に、フランケンシュタインこそは

移植技術の申し子のようなものでもある。

ち、違うんだ、

おばあちゃん

お、俺は決して、

そんなつもりで言ったんじゃないんだ

分かってるわ、

フランちゃんは本当は優しい子だもの

……
フランケンは気づいた。


自分の出自を、(みにく)い姿を呪い、

いじけて、卑下し続けて来た。


だが、(みにく)いのは、自分の姿ではなく

自分の心のほうだったのだと。

それにね、フランちゃん
この世界では、

見た目で人を差別しては

いけないことになっているのよ

あなたは人造人間であったとしても

間違いなく人間だもの

あなたが心を開いて、

この世界の人間を受け入れようとすれば

きっとこの世界の人達だって、

あなたを受け入れてくれるわ

う、うぅっ……

フランケンの目からは涙がこぼれ落ちる。


それこそが、例え人造人間であっても、

フランケンが人間であることの証。


目の前にいるのは、

小さく痩せ細った、か弱い、非力な老婦人。


しかし、その何倍もの大きさで

はるかに力がある自分よりも、

このおばあちゃんはよっぽど強い。


フランケンはそのことを理解した。

そして、その瞬間、

フランケンはおばあちゃんに恋をした。

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