気になる人魚の秘め事
文字数 1,573文字
両手の鋭い爪を刀剣の刃の如く伸ばし、
牙を剥き、雄叫びを上げ咆哮する中級悪魔。
自らの欲望を剥き出しに、
目の前に居る
その鋭利な爪で切り裂く。
散り散りに服が裂かれ、
その美しい白い肌には
幾筋もの
我を忘れ無我夢中になって、
目の前の
しかし本物の愛倫 はそこには居なかった。
既に『淫夢・攻』は発動いていたのだ。
悪魔が我に返って周囲を見回すと、
そこには鏡面のように曇り一つ無く磨かれた
無数の盾が自分をぐるりと取り囲んでいる。
目の前に映る八つ裂きにされたサキュバスの姿、
しかしそれはよく見ると盾の鏡面に映った自分の姿。
自慢の爪で八つ裂きにしていたのは
自らが繰り出した攻撃は
全て自分自身に跳ね返って来ていたのだ、
ペルセウスの盾によって。
自らの爪痕で血塗れになった悪魔は
片膝をついて崩れ落ちる。
最後の力を振り絞って
再び立ち上がる悪魔。
確かに
人間達の欲望を目の当たりにして来た。
力で戦いに敗れた中級悪魔は
せめて一矢報いようとしているのか、
負の感情を抱かせることで。
少し首を傾げて頭を悩ませる慎之介。
突然の斜め上の回答に
悪魔だけではなく
頭にハテナマークが浮かぶ。
斜め上過ぎて、
二人が最初に出会った時にも
そう言えば似たようなことがあった。
なぜかドヤ顔をしている愛倫 。
もはや何をドヤっているのかすら
慎之介にはよく分からない。
この短時間で少なからず魅了され、
あまつさえ八つ裂きにする妄想までも
晒されてしまった中級悪魔からすれば
全くもって立つ瀬がない。
そう言うと
目の前の悪魔を
そうなのだ、本来人間を魅了する筈のサキュバスが、
すっかり人間に魅了されてしまっている。
しかも自分の色仕掛けは大して効果がない。
しかし愛倫 にはそれが嬉しくて仕方なかった。