気になる人魚の秘め事

文字数 1,573文字

フハハハハハッ

両手の鋭い爪を刀剣の刃の如く伸ばし、 

牙を剥き、雄叫びを上げ咆哮する中級悪魔。

自らの欲望を剥き出しに、

目の前に居る愛倫(アイリン)

その鋭利な爪で切り裂く。

散り散りに服が裂かれ、

その美しい白い肌には

幾筋もの爪痕(つめあと)が残り、血が流れる。

フハハハハハッ

我を忘れ無我夢中になって、

目の前の愛倫(アイリン)を八つ裂きにする悪魔。

いくらあんたがつくり出した

クソみたいな妄想だからって


あんまり気分がいいもんじゃあないね

しかし本物の愛倫(アイリン)はそこには居なかった。


既に『淫夢いんむせめ』は発動いていたのだ。

なっ!?

悪魔が我に返って周囲を見回すと、

そこには鏡面のように曇り一つ無く磨かれた

無数の盾が自分をぐるりと取り囲んでいる。

目の前に映る八つ裂きにされたサキュバスの姿、

しかしそれはよく見ると盾の鏡面に映った自分の姿。


自慢の爪で八つ裂きにしていたのは

愛倫(アイリン)ではなく自分自身。

バ、バカなぁぁぁぁぁ

自らが繰り出した攻撃は

全て自分自身に跳ね返って来ていたのだ、

ペルセウスの盾によって。

まぁ、サムエラの術、ペルセウスの盾を

あたし風にアレンジしたってとこかね

自らの爪痕で血塗れになった悪魔は

片膝をついて崩れ落ちる。

最後の力を振り絞って

再び立ち上がる悪魔。

だがよお、レジェンドさんよ


あんたがいくら頑張ったところで

こっちの人間も向こうと全然変わらねえんだぜ

あんただって見ただろうよ、

あの人間達の欲望にまみれた姿をよお

……

確かに愛倫(アイリン)はこの船に潜入して

人間達の欲望を目の当たりにして来た。

人間なんてもんはどこに居たって、

そんなもんなんだよ

人魚のアソコはどうなってんのか?

人魚のアソコは気持ちいいのか?

そんなことばっかりが

気になって気になって仕方がねえんだよ

人間って奴の欲望には

際限(さいげん)がねえってことだよ

力で戦いに敗れた中級悪魔は

せめて一矢報いようとしているのか、

負の感情を抱かせることで。

そこに倒れてるあんちゃんよ、

あんちゃんだってそう思うだろうよ?

うーん……
少し首を傾げて頭を悩ませる慎之介。
ずっと思ってたんですけどね

人魚って魚類みたいに、

(めす)が卵を産んで

(おす)がそこに精子をかける訳じゃないんですかね?

はあっ?!
はあっ?!

突然の斜め上の回答に

悪魔だけではなく愛倫(アイリン)ですら

頭にハテナマークが浮かぶ。

あはははっ!

斜め上過ぎて、愛倫(アイリン)は笑い出す。

二人が最初に出会った時にも

そう言えば似たようなことがあった。

さすが、慎さん! 最高だよ!

見事に童貞丸出し、

いや、朴念仁(ぼくねんじん)丸出しだよっ!

おい、こいつ頭おかしいんじゃねえのか?

何言ってんだよ


あんたも随分お(かど)違いな相手に向かって

同意を求めちまったもんだね

なぜかドヤ顔をしている愛倫(アイリン)

この人はね、

このあたしが全裸で抱きついても、

抱こうとしないような人なんだよ

もはや何をドヤっているのかすら

慎之介にはよく分からない。

……自分、さっきから、

めっちゃ恥ずかしいプライベート

暴露されてるような気がするんですけど……

この短時間で少なからず魅了され、

あまつさえ八つ裂きにする妄想までも

晒されてしまった中級悪魔からすれば

全くもって立つ瀬がない。

そんな馬鹿な


レジェンド級のサキュバスの

魅了が効かない


そんな欲が無い人間がいる筈ねえだろっ

だろ?
愛倫(アイリン)は嬉しそうに笑って剣を振り上げる。
だからもう、あたしもメロメロさね

そう言うと愛倫(アイリン)

目の前の悪魔を袈裟斬(けさぎ)りに斬って捨てた。

グハッ

そうなのだ、本来人間を魅了する筈のサキュバスが、

すっかり人間に魅了されてしまっている。


しかも自分の色仕掛けは大して効果がない。

しかし愛倫(アイリン)にはそれが嬉しくて仕方なかった。
いやぁ、よく分かりませんが、

お恥ずかしい……

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