忌み嫌う匂い
文字数 1,288文字
ミルリンが起こした騒動が笑い話として
サキュバス仲間に広まるのと同時に、
それに付随するかのように
よからぬ噂が立ちはじめる。
ミルリンが不法侵入した住宅街、
その近辺に明らかにヤバイ家がある、
そうサキュバスの間で話題になっていたのだ。
各地に散っている筈のサキュバス達が、
地下にある喫茶『カミスギ』に立ち寄っては
それぐらいにサキュバス達は心配していた、
被害者のことを。
その話を聞き
問題になっている
その家の
十字路の角に隠れるようにして、
その一軒家を見上げる
その家からは
最も忌み嫌う匂いしかしない。
昔、
そんな光景を何度も見て来た。
地下牢に拘束され監禁されている少女、
体中が傷だらけの少女、
そんな光景を見た時と同じ匂いがする。
小学生高学年ぐらいの女児が住んでいる。
嫌な予感はますます不安へと変わって行く
父親の腕枕で寝ることを強要されたとか、
一緒にお風呂に入ることを強いられたとか、
そんなレベルでは終らないであろう腐った匂い。
昔の異世界ぐらいの文化レベルであれば、
かって自分がそうしていたように。
だが現代の人間社会、
人権、プライバシー、個人情報保護等々、
法整備もされ様々な仕組みが確立された
こちらの世界ではそういう訳にはいく筈もない。
ミルリンのように
それは当然不法侵入となるし、
親子のプライベートな問題に
他人が介入するには限界がある。
その少女をいたたまれなく思い、
家の中で起こっている出来事、
それが表面化しなければ
外部の人間は立ち入ることすら出来ない。
少女本人に会って確かめようとした
学校帰りを狙って、話しかけてみるが、
まるで死んだような目をして、
ただ黙々と歩き続けるだけだった。
今は知らない人に話かけられたら逃げろと
子供に言って聞かせる時代だから
それは当然のことなのかもしれない。
金髪でライダースーツを着た
ちょっと胸の谷間が見える女という時点で、
不審者だと思われても
仕方ないと言えば仕方ない。
変質者ということで通報されなかっただけ
よかったのかもしれない。