多神教の神

文字数 1,725文字

待ってくれっ、違うのだっ、

これは私がやったのではないっ

ここは人通りが少ない路地裏、

目の前に居るのは死神、

そして人間の男が倒れている。

ーー

『異世界人らしき不審者が、人間を襲っている』

そう警察に通報があり、

ちょうど近辺に居た警部達に連絡が入り、

急遽この現場へと駆け付けて来た。

……

愛倫(アイリン)と慎之介もまた

どさくさに紛れて一緒について来ている。

……
……


話を聞いてくれ

今現在、眼前に見えている死神は

おおよそ人間が考え得る

ステレオタイプとほぼ同一の姿。

身の丈は二メートルを超える巨漢、


ローブを纏い、フードを深く被って

その隙間からは白骨姿が覗いており、


死神の身の丈と同じぐらいの

巨大な鎌を手にしている。

人間がイメージする死神そのもの。
――

死神の前に倒れている人間の男は

既に青白く生気を全く感じさせない、

おそらくは既に絶命しているであろう。

ひぇぇぇっ!
なんだこのオカルティックなのはっ?
んんっ……
……

死神の姿に恐怖する大泉警部、

同行して来た警官達も

拳銃を手に後ずさりする。

こいつ等、今まであたしを

なんだと思ってたんだろうね?

オカルティックという点で言えば、


愛倫(アイリン)もまた

死神といい勝負のオカルト加減なのだが、


やはり見た目は重要ということだろうか。


撃てっ、撃てっ!

恐怖に駆られた大泉警部は

咄嗟に警官達に発砲を指示。

待ちなっ!!
愛倫(アイリン)はこれを制止しようとする。

もしこれが本当に死神であるならば、


曲がりなりにも『神』を名乗る存在に

問答無用で発砲するなど、


どんな報復をされるか分かったものではない。

しかし愛倫(アイリン)制止の甲斐も虚しく、


やはり恐怖に支配された警官達は

冷静な判断力を失っており、


手に持つ銃の撃鉄を引く。

クッ……
くっ……
パァン パァン パァン……

緊迫した空気の中に

響き渡る銃声。

あーあぁ、

相手は一応神様だってのに、

こいつ等罰当たりにも程があるね

しかし銃弾は

死神の体をすり抜けて行くばかりで、

全く効果はない。

人間達よ、すまぬが

お主らに捕まるという訳にはいかんのでな

死神はそう言い、ローブを翻すと

その場から姿を消した。

そりゃね、

人間に逮捕された神なんて、

あたしだって聞いたことがないよ

ははは……

さっきから横で

愛倫(アイリン)のツッコミを

聞いている慎之介は苦笑するしかない。

まぁでも、

優しい神でよかったじゃないか

こんなの普通だったら

殺されててもおかしくはないんだよ

確かに、死神がその手にする大鎌を振り回すだけで


目の前に居る人間は

肉体と魂のつながりを絶たれ


それだけであの世行きとなる。

……

愛倫(アイリン)の言葉で、慎之介は改めて

今目にした存在が神であることを

再認識せざるを得なかった。


探せっ、探せっ!
おいっ……
はっ……

取り乱した大泉警部は

警官達に死神の捜索を命じたが、

愛倫(アイリン)が動くことはない。

人間達によって、連続突然死の

容疑者にされてしまった死神だけど……

むしろあたしは、これで

死神が犯人ではないことを確信したよ

愛倫(アイリン)さんはあの死神と

面識はないのですか?

慎之介は愛倫(アイリン)

異世界の生き字引か何かと

勘違いしているのかもしれない。

いや、あたし達の世界も

こちらの世界と同様に


一神教と多神教では

テリトリーが分かれていてね

あたしはどちらかと言えば

一神教の世界寄りだから、


多神教の方はそれ程

詳しくないんだけれども

それでもあの死神は

こちらの世界に元から居る

土着の神じゃあないかね

確かに、こちらと異世界を繋ぐ

ゲートが出現してから

霊的干渉が起きて


今まで見えなかった存在が

見えるようになった

という報告がありましたね


しかし、

死神が犯人ではないとなると


警察に通報があったというのも

怪しい気がしますね

愛倫(アイリン)の勘を

慎之介は全面的に信じている。

確かに、

タイミングが良過ぎるね

これまでずっと

被害者の死亡時刻は夜だったのに、

今回だけこの明るい時間ってのは

真犯人が死神をハメようとしたのかね……

大泉警部と警官達は慌ただしく

容疑者の死神を探し回ている。

だから、アレが犯人だったら、

あんた達全員とっくに殺されてるって

さすがに神を甘く見過ぎだよ

被害者の状況を確認した後、

愛倫(アイリン)はそうツッコミを残して

慎之介と共に現場を後にするのだった。

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