サキュバスとキャバクラ嬢
文字数 1,826文字
かしこまって頭を下げるサキュバス。
頭を上げて、客の顔を改めて確認すると、そこで態度が豹変した。
どうやらよく来る常連さんだったらしい。
男性は口元にはマスクを着用している。
他者と近づくこと、
接触することを禁じられた社会。
新型ウィルスが発見されて
世界中の人間達に感染が広まり
何十万もの人類が亡くなった時、
人々はみな一様にマスクを着用し、ソーシャルディスタンスを余儀なくされていた。
元々は悪魔などと同様に、実体を持たない霊的な存在であるサキュバスの始祖。
その系譜を継いだ子孫である現在の彼女達もまた、精神体や霊体が物質化した存在に過ぎない。
つまり人間とは根本的に体の構造が違う。
人間がかかる病気やらウィルスなどには、そもそもが無縁な存在なのだ。
人間が人間と近づくことを拒否し、ソーシャルディスタンスを遵守し、濃厚接触することを禁じた結果。
ウィルスには何ら影響を受けないサキュバスは
その、人と人との間に空いた距離に、隙間にスッポリと入り込むことに成功した。
女性と濃厚接触出来ずに、満たされない欲求を抱えた男達。
そんな彼らと濃厚接触して、欲望を満たしてやることが出来るのは、今はサキュバス達しかいない。
このお店も、感染の心配がないサキュバスが嬢であることを売りにしていて、遊びたいけど感染が怖いと思っている男性客の集客に成功していた。
お酒も入り盛り上がって来たところで
サキュバスのパリスンは積極的に男性客を誘う。
あの手この手で
男性客を口説き落とそうする
肉食系女子のパリスン。
もはや立場がまるで逆。
ここはキャバクラであるはずなのだが、
もはやサキュバス達の
餌狩り場のような有り様になっていた。