肉を切らせて魂を断つ

文字数 1,949文字

そろそろ、決着を

つけようじゃあないか

ライダースーツはすでに何箇所も斬られ

そこから愛倫(アイリン)の白い肌が露出している。

……

ソードマスターも

外見は無傷に見えるが

魂にいくつかの切り傷を負っていた。

……

両手の剣を体の前で交錯させて

左右をその刃で守る、防御態勢から、

ソードマスターへと突進する愛倫(アイリン)

――捨て身の策か?

ソードマスターは刹那の間に

敵の行動を予測する。

――横からの太刀筋、袈裟切りは

おそらく左右の剣で防がれる

残された太刀筋としては


正面を上から下へ

切り捨てる軌道のみだが


それもまた敵の誘いであろう……

おそらくそこに太刀を出した瞬間に

一方の剣で防がれ

もう一方の刃で貫かれる

とは言えこのままでは


この防御の構えから懐に飛び込んだ瞬間

一転して攻撃に転じて来るだろう

残された道は

敵が攻撃に転じた刹那

相手より早くその身を切り裂く

――我が『神速の剣』であれば

防御態勢から転じた

愛倫(アイリン)の左手の剣が振り被った刹那

ソードマスターは

その空いた脇腹から真横に

愛倫(アイリン)の身体を切り裂いた。


その筈であった。

しかし、愛倫(アイリン)の体に刺さった剣は

そこから微動だに動こうとしない。

ソードマスターが負わせた筈の傷は

太刀が刺さったその瞬間に

すぐに塞がれており、


そればかりではなく

剣の体に刺さっている箇所は

愛倫(アイリン)の身体と同化を果たしていた。

――しまった! 

剣を封じるのが目的であったかっ

愛倫(アイリン)が振り下ろした一刀目もまた

敵を誘い込むためのもの。

ソードマスターが気づいた時には時既に遅く、

愛倫(アイリン)の突き出した二の太刀に

その体は貫かれていた。

いや身体には全く傷はないので

肉体を貫かれている訳ではない、

その魂を貫かれたのだ。

うぅっ……
その場に崩れ落ちるソードマスター。

『肉を切らせて骨を断つ』ならぬ

『肉を切らせて魂を断つ』と言ったところか。

技量はほぼ互角か、

愛倫(アイリン)が少し劣っていたが


相打ちも辞さない愛倫(アイリン)の捨て身の一撃


その覚悟が勝敗を分けたのだ。

戦いの終わりを確信する愛倫(アイリン)

その息は少し乱れている。

だから

事前に説明しておいたじゃあないか……

体の傷はすぐに治るって

愛倫(アイリン)は同化を解除し

体に刺さった剣を引き抜く。

まぁ、それでも

最後のはちょっと、

卑怯だって気がしなくもないけどね

ニンジャマスター、いるんだろ?

出て来なよっ

闇と同化していたニンジャマスターが

影の中から姿を現す。

お見事でござった

ソードマスターのことを心配する余り、

夜陰に乗じて敷地内から

ことの一部始終を見守っていたのだった。

ソードマスターは

あんたに任せたよ


このまま連れて帰っておくれよ

倒れている同胞に

駆け寄るニンジャマスター。

数日は起きないかもしれないけれど

一番治りが早い

『突き』で仕留めたからね


すぐに魂の穴も塞がって

目を醒ますだろうよ

ソードマスタ-を

軽々と抱え上げ、左の肩に担ぐと

ニンジャマスターは頷いた。

あたしはあの()達を

なんとかしなくちゃ、いけないからね

すっかり屋敷も静まり返っており、先刻のような

どんちゃん騒ぎの音は聞こえて来ないが、

それはそれでまた別の心配が生じる。

まさか、殺しちゃいないだろうね

これ以上マフィアと関わりたくない愛倫(アイリン)としては、

出来るだけ速やかに、即刻帰りたいところ。

愛倫(アイリン)殿、

かたじけないでござる

この恩は生涯忘れませぬ
まぁ、いいってことさ

あたし達もいつ

あんたに助けてもらうことになるか

分かったもんじゃあないからね

それに……

魂は斬られたけど


ソードマスターとあんたとの(えにし)

切られなかったってことさね

微笑を浮かべそう言うと

愛倫(アイリン)は屋敷に向かって歩き出す。

ソードマスターを担いで

再び闇と同化し消えて行く

ニンジャマスター。

この件に恩義を感じたニンジャマスターはこれから先、

愛倫(アイリン)が事件に直面した際には情報屋として、


また時には自ら諜報役や密偵を買って出て、

協力してくれるようになるのだった。

zzz
zzz
zzz

その後、愛倫(アイリン)がマフィアの屋敷に戻ると、

大親分をはじめ、若頭、三下に至るまで全員が

既に精気を吸われノックアウトされた後だった。

もちろん全員死んではおらず、

サキュバスの娘達の通常からすれば

かなり控えめな方でもある。

うふふ
うふふ
うふふ
娘達はすっかりご満悦の様子。
はぁ……

その場に倒れている人間全員の

直近数時間の記憶を消して回る愛倫(アイリン)

これで今回の件は、

なかったことになってくれれば

愛倫(アイリン)的にはもっとも望ましい。

なんで、あたしだけが、

こんな目に合うのかねぇ

今晩、(しん)さんの寝込みでも

襲ってやろうかね、まったく

愛倫(アイリン)からすれば

愚痴の一つも言いたくなるというものだ。

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