ヴァンパイアと見えない敵

文字数 1,645文字

この悪魔めっ!!

こんなに多数で

攻めてくるとは卑怯なっ!

――敵の執拗な波状攻撃に翻弄されてしまっているではないか
クソッ!

――多勢に無勢

圧倒的な苦戦


だが俺の心は、まだ折れてはいないぞっ!

俺は負けはせんっ!


俺には、闇の眷属としての

誇りがあるのだからっ!

よしっ!

もう一体、敵を仕留めたぞっ!
なっ!?
――その潰れた肉体の内からは真っ赤な血が……ベットリと俺の体に付いているではないか

クッソ、もしかしてこいつら

俺の血を吸ったというのか?

――先程敵を潰した時は赤くはなかった


なのに敵の体内から

赤い血が流れているということは


俺の血が吸われたということに他ならない……

いつもは俺が血を吸う側だというのに……


その俺が逆に血を吸われたというのか!?

こいつに血を吸われたという事は……


まさか、この俺も

こいつの眷属にされてしまうということかなのかっ!?

――異世界で自分が人間女性にして来たことを顧みれば

それは間違いないだろう

我が血を欲する、このモンスターめっ!


俺は貴様らなんぞに屈しはせんぞっ!

――しかし、

敵は非情に小さく動きも素早い


なんと見えづらいのだ……

ヴァンパイアが必死に敵と戦っているここは、ボロアパートにある四畳半一間の彼の部屋。

ガチャッ
おじゃましまーす
チィースッ!
いくら呼んでも返事ないんで


勝手に上がらせてもらいましたぁ

約束通り、

ヴァンさんの家に


遊びに来ちゃいましたあ

マジ、マジで

ヴァンパイアが働いているコンビニのバイト仲間であるチャラ男。

ヴァンさん、

家でも上裸(じょうら)に革パンとか

マジカッケぇ


ヴァンさんのそういうとこ

マジリスペクトっす

…………。
なにやってんすか?

俺がバイトの夜勤明けで寝ていたら、こいつらがいきなり襲って来たんだ

こちとら眠くて眠くて仕方ないというのに

このしつこい小さいのは一体なんなんだ?


この世界の吸血鬼か?

ブーーーーン

なんすか?


ヴァンさん、

『蚊』知らないんすか?

蚊?

知らんなぁ……

同じ血を吸う者同士なのに? マジ? 


マジヤベぇ

蝿ならあちらにも沢山いたんだがな


蚊という生物ははじめて見たな

じゃあ、蚊って


こっちの世界限定の生き物なんすかね


蚊ぁ、マジパネぇ

蚊に刺されるとマジ痒いんすよね

日本脳炎になったりもするって


小さい頃

ばあちゃんによく言われましたよ


蚊ぁ、マジパネぇ

…………。

ヴァンさん、

蚊に刺されたとこ痒くて

掻いたでしょ?


ぷっくら腫れてるじゃないすか

上裸(じょうら)だから

そちこち刺されまくってますよ


蚊ぁ、マジパネぇ

掻いたら

余計に痒くなるんで


痒かない方がいいんすよ

……。

ん?

この十字の傷どうしたんすか?
あぁ、あまりに痒過ぎるのでな


刺された箇所を

爪で十字に刺してしまったんだ

爪が長いから

深く刺さり過ぎてしまったな

あーはいはい


子供の頃、

俺もよくやってたっすよ

それ

十字かぁ……


十字か……


十字架……

!!
ヴァンさん!


その傷痕、十字架みたいになってるじゃ、ないすか!?


大丈夫なんすかっ!?

違うっ!!


これは十字ではないっ!!

❌なのでセーフだっ!!
さっき、自分で


十字にって言ってなかったっすか?

敵に十字架を見せられた時も


あれは十字架ではない


バツが二十〜三十度回転したものだと


そう思い込むんだ


そうすれば効かない

マジっすかっ!?
あぁ、ヴァンパイアの間では有名な十字架への対処法だ
ヴァンパイアも気の持ちようなんすね


ヴァンパイア、マジ強ぇぇ

――もしや、これは……

自分が今までやって来たことを


そのまま、この蚊という奴にやられたということか?

――確かに

自分も血を吸おうとして


夜な夜な女性宅に押し掛けて

しつこくつきまとい


キレた女にぶん殴られたりしていたな



さすがに、

ぶん殴られて潰れて


血をぶちまけるようなことはなかったが


まぁ、もしそうなったとしても

俺ってアンデッドだし

――なるほど、これがこちらの宗教用語で言う、因果応報というやつか
――確かに、間違いなく、鬱陶しい


チャラ男の言葉を借りるならば、マジウゼぇと言うやつだ

――眠くて眠くて仕方がない相手の寝込みを襲うなど言語道断


俺も随分と、すまぬことをしていたものだ……

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