遠い未来の木漏れ日の下

文字数 1,315文字

おばあちゃん、

こんにちは

あらぁ、

よく来てくれたわねぇ

――それは遠い未来


もうあれから百年以上が過ぎようとしている。

この子が、どうしても

おばあちゃんの居るところに

行きたいって言うから

あらぁ、嬉しいわ
てへ
……
……
少女が一人で老人ホーム内の庭を散策していると、

木漏れ日の中に、大きな男の影を見つける。

あなた、だあれ?
……
おじさんはね、

フランケンシュタインって言うんだ

フランケンは口の再手術を受けて、

普通に喋れるようになっていた。

お嬢ちゃんこそ

どうしたんだい?

こんなところで

うーん……

なんだかよく分からないんだけど

ここに来なくちゃいけない、

そんな気がしたの

……そうなのかい

ベクター・フランケンシュタイン博士の

移植技術をはるかに凌駕した未来の医療。


再生医療を応用した整形手術を行えば

フランケンは傷あとをすべて無くして


普通の人間と変わらぬ姿で

暮らすことも出来たのだが、

彼はそれをしようとはしなかった。


フランケンはお嫁さんと出会った時の姿のままで

ずっといたかったのだ。

お嬢ちゃんは

おじさんがこわくないのかい?

どうして?

異世界から来た人はいっぱいいるよ?

変なのぉ

そういう人達を差別しちゃいけないって

学校で習うんだよ

そうなのかい
そうかい、

おばあちゃんに会いに来たのかい

うん
家族はいいよね、

素晴らしいものだよ

おじさんには

家族はいないの?

そうだね……

ここのね、老人ホームのみんなが

おじさんの家族のようなものかな

ふーん……

おじさん、奥さんとかいないの?

すごい昔ね、

お嫁さんがいたんだけど


病気で死んでしまってね

おじさんの

とっても大切な人だったんだ……
そうなんだぁ……

かわいそう

じゃぁ、あたしが

おじさんのお嫁さんになってあげる

……

さすがに、それはちょっと

おじさんが捕まってしまうかな

どうして?
お嬢ちゃんはまだ小さいから


お嫁さんってのは

もっと大人になってからなるんだよ

じゃぁ、あたしが大きくなったら

おじさんのお嫁さんにしてよ

……そ、そうだね
約束だよ?

指切りしよう

フランケンのとんでもなく大きな手と、

少女の小さくか細い指で交わされる指切り。

ねえねえ、

おじさんの肩の上に乗せてよ

いいけど、

どうしてだい?
うーん……

なんでだろう

すごく高そうだし、

景色が遠くまで見えそうだから

フランケンは両手で少女の体を持ち上げると、

自分の左肩の上に乗せてあげた。


あの時のおばあちゃんよりも、

さらにもっと軽い、小さな体を。

ほらっ、高いよ
すごいっ!


あっ、こんな所にいたのね……

もう帰るわよっ
あ、院長……

いつも母がお世話になっております

いえいえ、とんでもない

今フランケンは、

この老人ホームのオーナーになっていた。


数十年前にここを取り壊すという話があった時、

貯めていた全財産をはたいて、買い取ったのだ。


いつかきっとまた、ここでおばあちゃんに、

自分のお嫁さんだった人の魂にまた会える、

彼はそう信じ続けていた。


老朽化が激しくて、建て替えも行ったが、

木漏れ日だけはあの時のまま、ずっと変わらない。

じゃあね、フランちゃん

また会いに来るからね

これっ!

院長に向かって、なんて呼び方するのっ

いいんですよ
またねぇっ!

フランちゃん


――本当にまた会いに来てくれたんだね
――ありがとう、おばあちゃん
――俺の、お嫁さん
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