竜人族の姫と、鬼族の子
文字数 2,253文字
竜人族の姫・ロザーナと鬼族の子・ジュリアーノ、
二人がはじめて出会ったのは、まだ幼い頃だった……。
遠出の帰り、運が悪いことに、
ロザーナが乗っていた馬車は野盗達に襲われた。
突然の襲撃に、
従者やお付きの者達はなす術もなく殺されて、
ロザーナも人身売買目的で捕えられてしまう。
間一髪のところで、ローザナを助けたのは
頭に二本の角を生やした鬼族の子供。
鬼の子は、ロザーナに襲い掛かろうとしていた
野盗の一人を手にする刀で切って捨てると、
すぐに野盗の仲間達に立ち向かって行く。
ロザーナには、その鬼の子が
ドラグーア家の仇敵である
オガーナ家の者だとすぐに分かった。
この世界で、風変わりな
東洋風の着物を着た鬼族といえば、
オガーナ家の一族しかいない。
だが、いくら鬼族とはいえ、まだ子供、
野盗の多勢に、苦戦を強いられる。
傷だらけになって、頭から血を流し、
それでもロザーナを守るように戦う鬼族の子。
ロザーナはこの絶対絶命の窮地にあってまだ、
一族同士の対立を捨てきれず、囚われていた。
まだ幼いロザーナが、この窮地にあってなお、
そう勘繰るほどに両家の確執は根深い。
だが、鬼族の子は、
振り返ってロザーナに言った。
美しい姫君を助けるのに
理由などいるものか?
ロザーナの胸に衝撃が走る。
それは恋に落ちた瞬間だったのかもしれない。
自らもボロボロになりながらも
なんとか野盗達を撃退した鬼族の子、ジュリアーノ。
自らが血だらけであるにも関わらず、
ジュリアーノは着物の袖を割いて、
ロザーナの怪我をしている脚に巻いた。
さすがにロザーナでも、ここで素直にならないと、
とんでもなく嫌な女になってしまうことぐらいは分かっていた。
ジュリアーノは、ロザーナを背負って
ただひたすらに歩き続けた。
先程負った傷の口が広がって、
再び血が流れはじめているというのに。
だが、ジュリアーノは
決して姫を背から降ろそうとはしなかった。
ロザーナは、ジュリアーノのその姿に
胸がキュンとせつなくなるのを感じていた。
竜人族の村に着いた頃には
すっかり日も暮れて夜になっていたが、
そのお陰でジュリアーノは
誰にも姿を見られることはなかった。
夜闇に紛れて、
村の先にあるドラグーア家の屋敷の前まで
ロザーナ姫を送り届けるジュリアーノ。
ロザーナはその時に、脚に巻いてもらった
血痕のついた着物の端切れを
今も肌身離さず持ち続けている。
ドラグーア家の城、自室で
その切れ端を握りしめて、
ジュリアーノの無事を祈るロザーナ。