フランケンシュタインのお嫁さん

文字数 1,545文字

……お、おはよう、ございます
彼の創造主である

フランケンシュタイン博士の雑な手術の影響により、

口が上手く回らないフランケンはこれまで

喋ることにコンプレックスを抱いていた。


それでもおばあちゃんの言葉で

心持ちを新たにした彼は、

自分から他者に喋り掛けるよう努力しはじめる。

フランちゃんは、

本当はすごく優しいんだから


もっと笑顔を見せたほうがいいわよ

……あ、はい
やはり最初の手術の影響で、表情筋が硬く、

笑顔がつくれないフランケンではあったが、

それでもおばあちゃんに言われたことを心掛ける。

おめえさんは、

本当にすげえ馬鹿力だな

……う、うん
その甲斐もあったのか、それとも人々が

単に見慣れただけなのかは分からないが、

次第に他の人間達とも

コミュニケーションがはかれるようになっていく。

あんた最近、なんか変わったねぇ


恋でもしたんじゃないのかい?

……い、いや、そんな


最近、みんなが

フランちゃんと仲良くしてくれて、

あたしも嬉しいわ

……う、うん

……お、俺も嬉しい

木漏れ日の中を

おばあちゃんの車椅子を押しながら過ごす、

穏やかなひと時。


それがフランケンにとっては、とても大切な時間。

フランちゃんには、

何か、夢とかあるの?

……

フランちゃんは

まだ若いんだから


若い人は、

夢ぐらい持たなくちゃ、ダメよ

実年齢で言えば、

フランケンの方がはるかに年上なのだが、

そんなことはおばあちゃんには関係ないのだろう。

……あ、ある
どんな夢なの?

おばあちゃんに、教えて

……い、いや

……は、恥ずかしい

えぇ、いいじゃないのよぉっ
フランちゃんの夢、

おばあちゃんにも教えてちょうだい

……で、でも
大丈夫、

誰にも言ったりしないから

……わ、笑われるかも
もちろん、

笑ったりなんかしないわ

……ほ、ほんと?
うん、じゃあ

指切りしましょう

フランケンのとんでもなく大きな手と、

おばあちゃんの小さくか細い指で交わされる指切り。

……お、俺は
うん、うん
……お、お嫁さんが、欲しい
まぁ、そうなのねぇ

いいわねぇ、

フランちゃんのお嫁さん

……お、俺には

……か、家族がいない

……な、仲間もいない

……お、お父さん、お母さんを

こ、これからつくることは出来ない

……で、でも

お、お嫁さんがいれば

……こ、これから

か、家族をつくることが出来る

そっかぁ、

フランちゃんは家族が欲しいのね

フランケンは自らを

フランケンシュタインと名乗っているが、

実際のところは

フランケンシュタイン博士が創り上げた人造人間。


それは唯一無二の存在であり、家族どころか

同じ種族ですら、他には存在していない。


そして、フランケンシュタイン博士も

とうの昔に亡くなっている今現在、

絶望的に孤独な種族、存在に間違いはない。

じゃぁ、おばあちゃんが

フランちゃんの家族になってあげる

……ほ、ほんと?
……な、なら

……お、お嫁さんに、なって、欲しい

それはフランケンのプロポーズなのか。
やだぁ、こんなおばあちゃんが

お嫁さんだなんて


恥ずかしいわ

……そ、そんなことない

……ぜ、全然そんなことない

……お、俺のお嫁さんは

……お、おばあちゃんがいい

思いもよらないところで情熱的なフランケン。
……わかったわ
じゃぁ、おばあちゃんが

フランちゃんのお嫁さんになってあげる

……ほ、ほんと?
……や、やったぁっ
表情筋が硬くて、ひきつっているような顔に見えたが、

フランケンは嬉しくて、心から喜び、笑っていた。

……お、俺のお嫁さん
喜びのあまり、フランケンは

車椅子に座っていたおばあちゃんを

両手で高く持ち上げた。

きゃぁっ、もうやだぁ、

フランちゃんたら

……や、やった、やったぁ
うふふ
それは間違いなく

フランケンにとっては至福の瞬間。

だが、フランケンはまだ気づいてはいなかった。


力自慢であるが故に、

その異変に気づいてはいなかったのだ。


おばあちゃんの体重が

あまりに軽くなってしまっていたことに。

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