ペルセウスの盾
文字数 3,082文字
サムエラが持つ呪術紋様、
戦闘能力を封印する呪いで
メディッサの石化能力を封じることになったが、
それは石化能力だけはなく
彼女の戦闘能力そのものを封じることになる。
呪いが成功すればおそらくメディッサは
この世界で最弱の人型生命体となるだろう。
しかし、それでもメディッサはそれを望み、
女や子供をはじめとして
力弱き者が虐げられることのない世界、
それが
そしてもう一つ、
メディッサが自らサムエラに頼んだことがあった。
もし万一仮に石化能力が発動してしまった場合、
石化の効力が自らに跳ね返って来るようにして欲しい、
それがメディッサの願いだった。
メディッサがこの世界で生きて行くという覚悟と捉え、
反対することはしなかった。
メディッサの石化能力が封印された数週間後、
条件付ではあるが彼女の移民申請は
日本国政府に受理された。
再度集まっていた四人、
泣いて喜びを分かち合っていたが、
サムエラは突然意外なことを言い出した。
悲願の移民が認められたこのタイミングで、
そんなことを言われ、
メディッサの頭はもはや
理解出来る範囲を超えてしまっていた。
メディッサは理解を超え過ぎていて
全く身動きすら出来ず、気を失っているか、
ペルセウスの盾が発動して
石化してしまっているのでないかという有様。
全く幸せ慣れしていない彼女には
ちょっと刺激が強過ぎたのかもしれない。
しかし、引きこもりニートが突然
明日から国民的アイドルになれと
言われたようなものだから
仕方がないと言えば仕方ないだろう。
再会した時からまるで別人のようだとは思っていたが、
こんな風に他者に情を掛けるぐらいに
変わってしまっていたことに
慎之介と二人で日中の渋谷を歩いていると
仕事の移動中、たまたま偶然見掛けたらしい。
メディッサも以前とは比べ物にならないぐらい
随分と明るくなって笑顔も見られる。
何度も深々と頭を下げてお礼を言うメディッサ。
以前も何度も深々と頭を下げてお礼を言われたのだが、
彼女は会う度に何度も同じ様に礼を言う。
ゴーグルと頭に被った
ニットキャップは相変わらずだが、
最近はキャップを被らないで
出掛けることも多いと言う。
そういう時は見知らぬ人に
一緒に写真を撮って欲しいと
言われたりもするそうだ。
なんでも一緒に写真を撮ると幸運が訪れると
SNSなどで噂されているらしい、
おそらくはキャラクターグッズの影響なのだろう。
生き生きと嬉しそうにしているメディッサに、
自然と
これから仕事の打合せだと言って、
その場を去って行ったメディッサだったが、
突然何かを思い出したかのように
慌てて駆けながら戻って来る。
メディッサが二人に手渡したのは
自らのマスコットキャラのキーホルダー、
おそらくはサムエラの会社の新商品なのだろう。
少し顔を赤くして照れながら笑い、
再度深く頭を下げてお辞儀をして
メディッサは渋谷の人混みの中に走り去って行く。
手にするメディッサのマスコットキーホルダーは
半透明で成形されたファイギュアに
一部着色がしてある。
太陽に透かしてキラキラ光るキーホルダーを