勇敢で英雄的な宇宙飛行士

文字数 2,232文字

おや? 船外活動かい?


そんな、宇宙服を着込んでさ

現在、宇宙船にはトラブルが発生。


超光速航行のハイパードライブに入る直前で宇宙船が緊急停止し、動かなくなっていた。

あぁ……

管理システムが現在緊急対応中だが


どうやら外部から俺自身が

確認する必要がありそうでな……

俺達二人しか乗員がない宇宙船だ


機体トラブルが発生した際には


自律学習型人工知能AIがすべて対処、マニュピレーターを駆使して、自ら修理までしてくれることになっているんだがな……

そうすべて上手くはいかんな……


今回みたいなイレギュラーもある

おやぁ? 緊張しているのかい?

不安に焦り、怯えや恐れも感じるねえ……

これはそろそろ

僕の食事の時間ということでいいのかな?

お前、こういう時は

本当に腹が立つ、嫌な野郎だな

そりゃまぁ、

本来、僕は悪魔だからね

ここで宇宙船が立往生してしまえば、

先に進むことも出来ず、

戻ることも出来ない……

地球に救援要請をしたところで


ここまで来るのに

何十年かかるか分かったものではなく


ほぼここで死ぬのを

じっと待つしかないに等しい……

そう考えるとさすがに俺も

冷静ではいられないな……

宇宙空間で船外活動をはじめるヒューイ。

しばらくしたら


不安や恐怖心が

スーッと胸の内から消えて行ったな

おそらくベルゼが

食事をはじめたのだろう

だが再びヒューイに恐怖心が湧き起こる。

この無限に広がる闇の中


今たった一本の命綱だけが

自分の命を繋ぎ止めている……

この命綱が切れれば、自分は


慣性に従うまま、永遠に止まることなく

宇宙を彷徨い続けることになるだろう……

そう思うと身震いして来るし、

なんだか呼吸がしづらく

息苦しくなって来る……

心的要因によるストレスから

過呼吸気味になっているのか……


…………。

……恐怖心が

すぐに消えてなくなったな

またベルゼが

恐怖心を喰らってくれたか

悪魔であるベルゼは

人間の負の感情を食らい尽くす

不安、恐怖、怯え、畏怖など

そうしたネガティヴな感情こそが

ベルゼにとってのご馳走

しかし、それだけであれば

普通の悪魔となんら変わりがない……

ポイントなのは

人間の負の感情『のみ』を

喰らい『尽くす』という部分だな


べルゼの場合は本当に

その人間から負の感情だけを


綺麗さっぱり平らげる、

マイナス要因が一切なくなるまで

負の感情をすべて食われた人間はどうなるのか?

負の感情をすべて食いつくされたので


その人間には、もうポジティブな感情しか残されていない

その結果、とにかく前向きで、情熱的、挑戦的なフロンティアスピリッツに満ち溢れた勇猛果敢な英雄が出来上がるって訳だ

それこそがベルゼが宇宙飛行士のバディに選ばれた理由であり


簡単に言っちまえば


俺をバーサーカー状態にするために用意された装置のようなものだな……

悪魔が相棒となって

メンタルケアすると言っても


ただお喋りの相手をするだけではないってことだな

移動のため、命綱の端にあるロック部分を

付け替えようとするヒューイ。


だが無情にも、

それは正常にロックがされていなかった。


ロックされていない状態で、

気づかずに動いたヒューイは、

慣性に従って

宇宙空間に投げ出されそうになる。

!!
しまった!!

カチッという音がした気がしたが


正常にロックがされていなかったかっ!?

いや、そもそも宇宙で音などする訳がない


俺がそう思い込んでいただけだ


安心したい俺の脳が

自分にそう思い込ませていたんだ

ダメだっ!!
このままでは流されるっ!!

クソッ!!


止まらないっ!!

俺はもうダメだ……
この暗い闇の中で……

酸素が切れ、

息が出来なくなり……


窒息死……

い、いやだぁっ!!
死にたくないっ!!
こんなところで死にたくないっ!!
助けてくれっ!!
誰か助けてくれっ!!
気をつけてって、言ったよね?

ヒューイの腕を掴んで引き寄せたのは

船内に居る筈のベルゼだった。


しかも宇宙服を着ておらず

その体は半透明に見える。


おそらくベルゼの霊体なのであろう。

だからぁ、言ったじゃないか

僕達は運命共同体なんだから……


もっと気をつけてくれないと困るよ

口角を上げ、舌なめずりをして

悪魔らしい笑みを浮かべているベルゼ。

まぁ、でも、

今のは一瞬だったけど、

相当な美味だったね

最高の『絶望』だったよ

船内に帰還したヒューイとべルゼ。


圧力調整室を出て

ヘルメットを脱いだヒューイは

ベルゼに問う。

お前、宇宙服無しで

宇宙空間に出られるのか?

まぁ、ほら僕、悪魔じゃない?

一応普段は人間の肉体に

寄せてはいるんだけどさぁ


本体は霊体のようなものだからね


霊体だけなら別に空気が無くても

問題ないってのが正解なのかな

一神教の世界観でさぁ


人間が死んだら

天使達が迎えに来て


魂が天に昇って行くじゃない?

おそらく天国に行くのだろうけど


じゃあその天国ってどこにあるのよ?ってなった時に


仮に地上と宇宙の間、成層圏ぐらいに天国があったとして


そんなところで呼吸なんかするの無理でしょ?

つまり、

霊体は呼吸が出来なくても

問題ないってことになる訳さ

美味なるご馳走をお腹一杯になるまで堪能したからね


嬉しくていつまでも饒舌に語り続けちゃうよ、今の僕は

それなら、これから

船外活動はお前にやってもらおうかな

いや、それはだめだ


君が恐れを感じることがなくなると


僕の食事もなくなってしまうからね

この、悪魔め
いやいや、まったく仰せの通り

外宇宙をたった独りで航行し続けたと

人類史に名を残す

勇敢で英雄的な宇宙飛行士(アストロノーツ)

ヒューイ・アームズ・剛力(ごうりき)


彼の宇宙旅行に、

お喋りで食いしん坊な悪魔の相棒がいたことを知っている人は少ない。

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