血にまみれた女
文字数 2,246文字
悪魔の群れの銃撃を、蝙蝠の羽根を硬質化、
前面に押出して防御に徹する《アイリン》。
だが、ただ防御しているだけとはいえ
羽根の硬質化にも最低限のエネルギーは使っている、
このままでは中級下衆の言う通り
いずれ力尽きて蜂の巣になるのを待つばかり。
その時、
階段が瓦礫で塞がってしまい、
そこをよじ登るなど難儀していた慎之介が
ようやくここまで辿り着いた。
勝ち目がなくなりつつある戦い、
せめて慎之介だけでもここから逃げて欲しい、
しかし慎之介はそんな
銃弾が飛び交う中を全力で走って向かって来る。
右の翼で自らをガードする
左の翼を長く伸ばして
慎之介に当たりそうな銃弾を跳ね返す。
彼女の元まで辿り着いた慎之介。
慎之介が来てから明らかに空気は一変した。
こうした不思議な力を気に入っている。
ただ空気が読めない奴と言われればそれまでだが、
壊してしまった方がいい空気もあるのだ。
まだ息を弾ませている慎之介は、
いきなり力強く
照れて恥ずかしさのあまり、どもった上に
逃げろと言いつつ、
慎之介が来てくれたことで嬉しくて
ここまでの付き合いから
今の
慎之介の目から見ても一目瞭然。
慎之介はそのために銃弾の中をかいくぐって来たのだ。
残されたエネルギーをすべて使って、
自らの羽根で二人の周囲を完全に囲んだ
絶対的防御の型で外部を一時的に遮断した
両の掌で慎之介の頬に触れようとする
血にまみれた自らの手が目に入り、
触れるのを
いつも自分を卑下するな、自分を下に置くな、
そう言っている
慎之介は胸が痛む。
止まっている
慎之介は自らの頬に押し当てた。
両頬に赤い血が着いたが、
慎之介は穏やかな笑みを浮かべている。
自らのおでこを慎之介のおでこにくっつけて、
潤んだ瞳で見つめる
相手の吐息と熱が伝わり、
まるで自分のものであるかのように慎之介には思えた。
いや実際には、慎之介からも
同じ熱量が放たれていたのだが、
本人にはまだそれがよく分かっていない。
蝙蝠の両翼は二人を完全に覆い包んだ。
羽根で二人を包み込んだ絶対的防御の型は、
まるで黒い花の
中級悪魔の
下級悪魔達は銃を乱射し続ける。
しばらく銃撃を続けていたが
それでもまだ型が崩れる気配はない。
それどころか徐々に翼の硬度が増して行く。
勝利を確信している中級悪魔、
しかし
右の翼はまだ二人を包んだままであったが、
ついには左の翼は
悪魔達が放つ銃弾を弾き返しはじめた。
その跳ね返す力とスピードも次第に強くなって行き、
跳弾を受け倒れる下級悪魔もいる。
もう
ひたすらに銃弾を受け続けていた
ついに左翼が大きく伸び、鋭利な硬い
最前列の悪魔どもを真っ二つに切り裂いた。
右翼で防御しながら
そっと慎之介を床に置いてから、
静かに立ち上がる
慎之介はもう自ら立ち上がることも出来ない、
精気の大半を彼女に託したためだ。
まさしく幽鬼の如き威圧感を発し、
静かでありながら燃え盛る青い炎のように
全身からオーラを放つ
いきり立つ
それは
人身売買に怒っているのか、
二人の初キッスを邪魔されて怒っているのか、
それももはや定かではない。