巨大霊砲 = スピリチュアル・カノン

文字数 2,000文字

まったく、自分は不甲斐ない

自分がこうして動けなくて倒れている間も

愛倫(アイリン)はずっと独りで戦い続けている。


そのことに慎之介は敬意を抱くと共に

自らの不甲斐なさを身に染みて感じていた。

まぁ、そこは

エネルギータンクだと思って、

割り切ってもらって

ふとそんな慎之介の脳裏に

漁村で聞いた逸話が()ぎる。

愛倫(アイリン)さん、百パーセントの力の内、

今何パーセントぐらいなんですかね

どうかなぁ、あたしも

百パーセントは見たことないんだけど……

多分、今五十パーセントぐらいじゃないかなぁ

青白いオーラを身に纏って光り輝き、

激しく舞い踊っているかのように戦う

愛倫(アイリン)の姿に慎之介は美しさすら覚えてしまう。

なんか今でも、

光ってるように見えるんですけど


百パーになったらどうなるんですか?

サキュバス仲間の噂によれば……

全身が黄金に光り輝くらしいですよ

それって……

あ、黄金バットはNGワードですよ


(ねえ)さんの前では言わないでくださいね

ですよねぇ……
あ、あと金粉ショーもNGワードですから
なるほど……
あんた達、ちょいとしつこいね

ここの場に居た下級悪魔達は

すべて一掃した筈であったが、

魔界と繋がるゲートから

まるで無尽蔵であるかのように、

再び続々とこちらにやって来ている。

こりゃ、まとめて処分しないとダメそうかね

愛倫(アイリン)がそう言うと

我が物顔で宙を飛び回っていた銃が一箇所に集まり、

青白い光の粒に、粒子レベルに分解した後、

再結合しはじめて再構築を果たす。

愛倫(アイリン)の頭上に浮くのは巨大な砲身、

口径約二メートル、全長十メートル弱、

巨大霊砲(スピリチュアル・カノン)

口径からは青白い霊的エネルギーが

今にも溢れ出さんとばかりに

愛倫(アイリン)の号令を待っている。

ゲートに向けて、その道筋を、

しなやかな美しい指で指し示す愛倫(アイリン)

と同時に船全体を大きく揺るがす程の轟音と共に、

収束された霊的エネルギーが

ゲートに向かって放出される。

閃光と共に巨大な光の束が、

ゲート手前に居る下級悪魔達を一瞬で消し去り、

ゲートの中央を直撃して消えて行く。

ゲート越しに魔界で順番を待ち、

待機している下級悪魔達を殲滅しようと

 愛倫(アイリン)は目論見たのだ。

うわぁ……

無茶苦茶するなぁ……

その光景を見ていたリリアンは思わず呟いた。

これで向こう側の奴らも

全滅している筈なんだけどね

涼しい顔をしている愛倫(アイリン)

これ程までのエネルギーを放出しても

まるで何ともない様子。


それ程までに慎之介の精気が効いているのか。

慎之介、逃げましょう、

あたしが運んであげますから

リリアンに悪気はなかった、

良かれと思って言ったことであった。

この船、間違いなく沈みますよ

先程から愛倫(アイリン)の攻撃は

この船の内部にも著しく損傷を与えはじめている。


本来、愛倫(アイリン)の攻撃は

こちらの世界の物質には影響を及ぼさないように

調整されているのだが、

物質非干渉臨界点を突破してしまっているのだ。

このままいけば損傷が激しくなった船が

沈むのは時間の問題だろう。

いえ、自分はここに残ります
だが慎之介はリリアンの申し出を断った。

もし万一また愛倫(アイリン)さんがピンチになったら


もう一度自分が精気を分けてあげなきゃ

エネルギータンクとしての任務を

全うしますよ

それ以上精気吸われたら、死にますよ?

愛倫(アイリン)さんが負けるぐらいなら、

それでもいいかもしれないですね……

彼女は自分のヒーローですから
そこは、ヒロインと呼んであげようよ

戦う力のない自分の代わり、

弱い人達の代わりに


いつも愛倫(アイリン)さんが戦ってくれるんですから

自分だけでも最後まで一緒に居てあげないと


最後まで戦いを見届けてあげないと

それに、船が沈むのに

愛倫(アイリン)さんが自分を置いて行ってしまうなんて有り得ませんし

それは愛倫(アイリン)が自分に惚れているから、

そんな自惚(うぬ)れではなく、

これまで共に戦って来たパートナー、

バディとしての絶対的な信頼と絆。

……

もし何かあったら彼女は自らの命を顧みず、

自分を助けようとするだろう。


だからこそ自分も愛倫(アイリン)の戦いを

最後まで一緒に居て(そば)で見届けなくてはならない。

そうでなければ……

そうでなければ……また


彼女は独りきりで

戦い続けることになってしまいますから

慎之介の言葉がリリアンの胸に響く。


まだ人外と呼んで差別する人間すら居るというのに、

そんな異種族である自分達の仲間と、彼女と、

それ程までに深く固い絆で結ばれているのかと。

慎之介、あんた、それってもう……

リリアンは躊躇(ためら)って、

その先を言うのを止めた。

慎之介自身が気づいていない気持ちを

自分が先に言うのは、違う気がしたからだ。

リリアンにとってそれは

慎之介の前で言ってはいけない、

NGワードだったのだろう。

ただ心の中ではハッキリと叫んでいた。

――慎之介、あんた、

それってもう愛だよっ!

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