ロザーナとジュリアーノ
文字数 1,434文字
夜空に浮かび上がる壮大な満月、
地上に届く微かな月光が
この世界の闇をわずかに照らし出している。
物質文明の道を辿らなかった、
大自然と共に生きる道を選んだここ異世界で
夜闇に光を差し込んで来るのは
空に浮かぶ月と星々の輝きだけ。
古城の東側に配された塔、
その窓先にあるバルコニーから
空の月に祈りを捧げる女。
この異世界で
竜人族を代表する名家である
ドラグーア家の娘ロザーナは
せつなさのあまり
こらえ切れずに嘆息を漏らした。
……姫 …… ロザーナ姫……
だが、それは夢などではなかった。
ロザーナが声が聞こえて来る方向に目をやると
暗闇の中に動く人影。
その影は塔の壁面を造り上げている石に
鬼のような鋭い爪を突き立て
徐々に上へと登って来ている。
いや、鬼のようなと言うのは正確ではない、
それは正真正銘の鬼、亜人の鬼族なのだ。
ロザーナの愛しい君であり、
鬼の一族を率いるオガーナ家の子
――ジュリアーノ・オガーナ
ロザーナにはそれが
愛しの君であることはすぐに分かった。
想像だにしなかったことに、
驚きのあまりロザーナは、心臓から口が飛び出るのではないかと思ったほどだ。
ロザーナは柵から身を乗り出して
下へと手を伸ばす。
鬼族の証である角が二本、
犬歯を鋭く尖らせてはいるものの、
同じく鬼の名を冠している吸血鬼の一族と
見間違えそうなほどに美しく端正な顔立ち。
もちろんロザーナは外見だけを
判断して好きになった訳ではないが、
それも魅力のひとつには違いない。
興奮して熱く火照った心と体、
紅潮した頬、潤んだ瞳、
ジュリアーノの姿を見ただけで
感極まって今にも泣き出しそうなロザーナ。
ロザーナが差し伸べた手を
ジュリアーノはしっかりと握りしめた。