命賭けの守秘義務

文字数 1,968文字

ねえさん、本当に勘弁してください
あっしは人魚失踪の件には関わってませんから

シャドウの気配を見つけ、

追い詰めることに成功した愛倫(アイリン)

……

表情が乏しく、そうは見えないが

困り果てているシャドウ。

あたしも信じてやりたいところだけどね


ここであんたが何かをやっていたってのは間違いないしね

その数日後に人魚の()達が集団失踪


さすがにそれを

偶然たまたまと言うのはね


そこまであたしもお人好しにはなれやしないねえ

いや本当にあっしは

別件を調べてたんでさぁ

何を調べてたんだい?

いや、それは……


守秘義務ってのがあるんで

言えねえんでさあ


お願いですから、信じてくださいよぉ

あんたまさか、

人魚の()達を調べて情報を売って

誘拐に協力したんじゃあないだろうね?

神に誓って、

絶対そんなことはしてませんて


ああどうして俺は

こうも信用がねえのかなあ

シャドウは天を仰ぐが

別に神を信仰している訳ではない、

どちらかと言えば闇の眷属だ。

それにですね、

もしあっしが人魚誘拐に加担してるってんなら

あん時、あっしがアイリンねえさんに

わざわざ挨拶する訳がねえじゃないですか

そんな、ねえさんの

ブチ切れ案件だって分かってるのに


わざわざそんなことするなんて、

いくらあっしでもそこまでアホウじゃありませんよ

まぁ、それはそうだね


だとしてもあんたが

誘拐するとは知らずに


人魚の()達の情報を悪い奴らに流しちまったってこともあるだろうよ

いやそれは絶対ねえよ、ねえさん

人魚のことを調べてたんじゃねえし、

依頼主も悪い奴じゃあねえ


信用してくださいよ

まぁそれはあんたが何をしてたのか、

話を聞いてから判断しようじゃあないか

勘弁してくださいよ、ねえさん

弱っちまったなぁ、

どうしても言えねえんだよなぁ

そうかい、可哀想なんだけどね


生憎(あいにく)今あたしも虫の居所が悪くてね

どうしても教えられないと言うのなら、

力ずくで教えてもらうしかないかね

そ、そんなぁ、

ちょっと待ってくださいよ

これでもあっしもプロですから

守秘義務ってのを守らないとですね

いやそれ以前に、漏らしちまったら

この世界から消されちまうかもしれないんでさぁ

勘弁してくださいよぉ、ねえさん


力ずくは、

必要無さそうですよ

懇願しているシャドウ、

そこに割って入って来たのは

愛倫(アイリン)を探していた慎之介だった。

自分の携帯に連絡がありました


これから先はシャドウさんと合流するようにと

今、あなたの依頼主と電話がつながってますんで


情報共有の許可を確認してください

慎之介は手にしていた携帯を

シャドウが横たわっている地面に置く。

……

電話で話しているシャドウを見て

厚みのないボディでよく携帯が使えるものだと

妙な感心をする慎之介。

どういうことなんだい? 慎さん
まだ事態を把握出来ていない愛倫(アイリン)

彼の依頼主は政府の諜報機関の関係筋


天下の公僕ですので、

自分の仲間ということになるんですかね

じゃあ、シャドウが調べていたってのは……

愛倫(アイリン)は嫌な胸騒ぎがしてならなかった。


以前と同じで、その名前が出る前に

相手が何を言おうとしているのか

直感で分かってしまう。

悪魔、ですね
また、あいつ等かい……

込み上げて来る怒りと、もう既に

悪魔がこれ程までに暗躍しているという焦りと不安、

不憫(ふびん)な人魚の娘達に対しての悲しみ、


いろんな感情が溢れて、複雑な胸中の愛倫(アイリン)

以前病院でプリーストが見たという悪魔の目撃情報、

それを上長に報告した慎之介。


政府は悪魔の日本国内侵入の事態を重く見て、

対策組織を結成し、調査に乗り出していた。

こちらの人間では

悪魔の足取りを追うことが困難なため、

異世界の情報収集のプロ達に依頼をしていたが、

その内の一人がここに居るシャドウということになる。

あんたのことを疑って

すまなかったねえ……


そこは素直に謝罪させてもらうよ

いいってことですよ


アイリンねえさんの気持ちは


あっちの世界に住んでた者なら

みんな知ってますから

現時点で、悪魔が人魚達を(さら)ったという確証はない、

ただあるのは状況の積み重ねだけ。

だが愛倫(アイリン)はこれが間違いなく

悪魔の仕業であると確信していた。

人魚を誘拐したのが

悪魔だと仮定して……


その場合、悪魔はどうしますかね?

あいつら自身は

人魚には興味がないだろうからね


売り飛ばすだろうね、人間に……

人身売買、ですか……

慎之介の頭には浮かぶ、

日本で人魚にまつわる残酷な伝説……


しかしそれを愛倫(アイリン)の目の前で言うなんてことは

とても出来るものではなかった。


だが愛倫(アイリン)自らがそれについて触れる。

運が良ければ、性の奴隷として

変態の慰みモノにされる程度で済むけどね……

運が悪ければ、人魚の肉を食べたら

不老不死になれると信じている人間達に

食われちまうかもしれないね

拳を強く握り締めて

愛倫(アイリン)は怒りに震えている。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色