四本腕の幻惑術

文字数 1,780文字

……

青白く燃え盛るオーラを放ち、

(ほの)かに光り輝きながら

幽鬼の如くいきり立つ女、愛倫(アイリン)

体を中心に、彼女の左右両脇を

挟むようにして武器が宙に浮いている、

左右の上段には銃、下段には剣が。

彼女の体内に蓄積されている

エネルギー量に直結しており、

つまりこれは完全復活を意味していた。

……チッ、復活させちまったか

中級悪魔はそのただならぬ気配から

レジェンド級サキュバスが回復したことを悟った。

いくら相手がサキュバスだからとは言え、

まさか戦場で、戦闘している真っ最中に

男とキッスして復活するとは

思いもよらなかったであろう、

たとえ混沌をモットーとする悪魔だとしても。

人間でも愛する相手との睦言(むつごと)

生きる活力を得ることはあるものだが、

それが性愛に生きるサキュバスであればなおのこと。


愛倫(アイリン)は慎之介に分け与えられた精気を大事に

何十倍にも増幅させ、能力を飛躍的に高めていた。

いくよっ

悪魔の群れに猛然と突っ込んで行く愛倫(アイリン)

すると分身の術でも使ったかのように、

宙に浮く銃が幾つにも分かれて増えて行く。

そして愛倫(アイリン)の動きに合わせて

空を飛び交いながら

悪魔目掛けて牽制、援護射撃を行う。


その銃も愛倫(アイリン)が霊力を駆使して

遠隔操作で動かしているのだから、

この場合はセルフ援護射撃とでも言うべきだろうか。

銃が悪魔を威嚇している間に愛倫(アイリン)

蝙蝠の翼を横真一文字に大きく広げ硬質化。


研ぎ澄まされた刃を持つ巨大剣と化して

悪魔達の間隙(かんげき)

閃光の如く一瞬で駆け抜ける。

体を真っ二つに切り裂かれ

血飛沫(ちしぶき)を上げる下級悪魔達。

クゥッ、これがレジェンドの力か……
中級悪魔は低い唸り声を上げた。

やっほー、慎之介

助けに来ましたよー

……

身動き出来ずに倒れている慎之介、

その頭上ではミニスカートを履いた少女が

顔を覗き込んでいる。

これはまた随分といい感じに

精気吸われてますねぇ

頭がずっと真っ白なままだった慎之介。


ついに自分の頭がおかしくなって

幻覚まで見えはじめたのかと思ったが、

改めてよく見ると、

当然それは幼女ではなくてリリアンの姿。

救出対象者を無事助け出し

思念を愛倫(アイリン)に送ったリリアンだったが、

全く反応がないので様子を見に来たのだ。

慎之介の頭の横にしゃがみ込むリリアン。

思念波に気づかないとか、

どんだけ激しかったんでしょうねえ

いや、あの、その……

リリアンの含み笑いに顔を赤くする慎之介、

激しかったのは戦闘なのかキッスのことなのか。

指揮官クラスの中級悪魔と

激しい攻防を繰り広げる愛倫(アイリン)

ンッ

反撃の隙すら与えることなく

連続攻撃を繰り出す愛倫(アイリン)

悪魔もまた剣と盾を手にして応戦するが、

猛攻の勢いにすっかり押され続けている。

クッ

両手で銃と剣を交互に使い分け、

持ち替えるモーションなしで、

流れを止めることなく

連続動作で繰り出される攻撃には

敵も防戦一方にならざるを得ない。

銃を離した次の瞬間には

もう既に愛倫(アイリン)の手には剣が握られており、

それは武器を持ち替えているというよりは

彼女の手の中に武器が勝手に

吸い付いて来るかのようだ。

――クソ、なんだこの動きは

その武器の切り替えが

非情に高速で繰り返されるため、

敵からすれば行動予測が全く出来ない。

動きを見て反応しようとしても

剣で攻撃して来るのか、

銃で攻撃して来るのか、

瞬時の判断が全く追いついかない。

さらにはあまりに動きが早過ぎるため

まるで腕が四本以上あるかのように思えて来る、

これもまた愛倫(アイリン)の幻惑戦闘術の一つ。

二刀の剣を盾と剣で受け止める悪魔、

これに対して遠隔操作の銃を

死角に回り込ませる愛倫(アイリン)

敵が銃撃に気を取られている隙に

相手の盾と剣を弾き飛ばし懐へと入り込む。

フンッ

敵の懐へと飛び込んだ愛倫(アイリン)

相手の頭と心臓の位置に

両手の拳銃を零距離射程から連射


弾丸が尽きた次の瞬間には

既に両の手に握られている剣で

上下から、左右から、

二方向からの十文字切りを繰り出す。

これを済んでのところで、

後ろに一歩下がって致命傷を免れる悪魔、

傷はまだ浅い。

すぐさま愛倫(アイリン)は、右足を下から上に蹴り上げ

悪魔の顎を打ち抜いて

そのまま空中で一回転して着地、


左足を真っ直ぐに出して渾身の蹴りを入れた。

はるか後方へと吹っ飛ぶ中級悪魔。

グハッ

……

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