老人の最期を看取るサキュバス

文字数 1,407文字

うぅぅっ……
おじいちゃん!

おじいちゃん!

しばらくすると、

ミルリンが一緒に暮らしていたおじいちゃんが倒れた。

今、救急車を呼んだから
ワシは、もうダメじゃ……
そんなこと言わないで!

しっかりしてっ!

ミ、ミルリンちゃん……
おじいちゃん……
ミルリンは老人をしっかと抱きしめた。
これは、極楽じゃな……
ミルリンのふくよかな胸の中に、

顔を埋め、満面の笑みを浮かべる老人。


ミルリンは死に逝く老人の、

最後の命をその胸でしかと受け止めたのだ。

――
老人はそのまま息を引き取った。


この上なく、穏やかで安らかな顔で

老人はこの世を去って行った。

……おじいちゃん


あの爺さん、

死んじまったんだってね

やっぱり……

サキュバスに取り憑かれていたのね

なんでも、昔、事業に失敗して

すごい借金があったらしいけど

最期まで悲惨な人生だったんですね……
老人は安らかに逝ったが、

残されたミルリンは大変なことになっていた。

……
根も葉もない噂をしていた近所の人間達から

口さがなく言われるのはまだいい方で、


老人と何十年も前に別れて、

それ以来一度も会っていなかったという

遺族までもが現れて、ミルリンを罵った。

お前か?

親父を殺したサキュバスというのは?

あんな年寄りから、毎晩

精気を吸い取ってそうじゃないの……

穢らわしい

ち、違います……

そんなことしてません

なんで、警察は

こいつを捕まえないんだ?


こいつは立派な人殺しじゃあないかっ!

そうよ!

こいつが父を殺したのよ!

ま、まぁ、

落ち着いてください

司法解剖でも完全に

病死という結論が出ていますから

移民局の慎之介が仲裁に入る。
病気になるように

こいつが仕組んだんじゃないのか?

そうよ、毎晩精気を吸い取られたら

病気にだってなるわよ

ち、違います……

そんなことしてません


……あたしは、また

間違ったことをしたんでしょうか?

そんなことはないよ
むしろ、いいことをしたんじゃあないのかい
でも……
まぁ、周りはいろいろと

あれこれ言うだろうけどね

爺さんのあの幸せそうな死に顔を見れば

そんなことはすぐにわかるじゃあないか

あたしも長いこと

いろんな人間の死に際を見て来たけどね


そりゃもう、嫌というほど

くたばる際に、あんな笑顔の人間、

そうそういるもんじゃあないよ

今回、ミルリンさんは

完全に無実だと証明されている訳ですから

そんなに気にしないでください
一人暮らしの老人の孤独死というのは、

社会的にも問題になっていますし

本当に今回のご老人は

幸運だったんじゃないでしょうか

……
自分も一応は男なので、

まぁ、これはあくまで

個人的な意見ですが……

女性の胸に抱かれて死ぬというのは

単純に羨ましいですよ

大丈夫、慎さんには

あたしの胸の谷間があるから

逆に窒息死しそうなんですけど……


それにね……
サキュバスは、やり過ぎて

人間の男を殺すって思われがちだけど

逆も多いんだよ
死期が近い人間の男を

サキュバスが看取ってやってるのさ

なんせ、サキュバスって種族は、

人間の男しか愛せないんだからね

種族も違うのにね
……
だから、あんたは

サキュバスの本能に従って


死に逝く人間の男を

看取ってやった


そういうことさね

あんたのその大きな

二つの胸の膨らみは


死に逝く人間の男達を

看取ってあげるために

あるのかもしれないね

……おじいちゃん
これから後、ミルリンは

独りぼっちで暮らす老人男性達のもとを

巡回して訪れるようになる。


老人男性達が孤独死することがないように。


それが彼女がこの世界で見つけた

自分にしか出来ない役割だと思ったのだろう。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色