行き過ぎた正義

文字数 1,706文字

ハァッハァッ……

今宵もまた

ドス黒く腐った魂を持った者が、

宙に浮く者達に追われていた。

追われている男もまた

罪を背負った者であり、

彼等はその命を以って

償いをさせようとしている。

や、やめろっ、

やめてくれっ!

逃げ惑う人間の男。

お前だって、

そう言ってた相手を

容赦なく殺したじゃあねぇかっ

自分の言うことだけは

聞いてもらおうなんて

ふてぶてしい野郎だなっ

死んであの世で詫びるんだなっ

三人の浮遊者は

それぞれに思ったことを口にしている。

ハァッハァッ……

追われる男は角を曲がって

路地裏へと走って逃げ込む、

その後を追う三人の浮遊者達。


やぁ、お久しぶりじゃあないか

だがそこには腕を組み

仁王立ちする愛倫(アイリン)が立ちはだかった。

宙を舞う三人は驚いて

空中で制止する。

……天使のみなさん

愛倫(アイリン)は宙に浮く者達を

『天使』と呼んだ。

……
……
……

確かに彼等は人間に酷似した姿で、

その背中に大きな翼を生やしている。

サキュバスのクソビッチかっ!

そこをどけっ!

さては俺達の獲物を

横取りしようってんだな?

腐った魂なんて、

お前達クソビッチの大好物だろうからな

悪態をつく三人の天使達。

いやだねぇ、あんた達は

天使のクセに品がなくて

もうビッチなんてのは

とうの昔に卒業してんだよ

そうだねぇ……


これからは、

愛に生きる女戦士とでも呼んでおくれよ

愛倫(アイリン)はサキュバスの娘達に協力してもらい、

この辺りで一番

ドス黒く腐った魂を持った人間を探し当て、

ずっと後をつけて張り込んでいた。

天使達がこの人間を襲って来るのを

待ち伏せしていたという訳だ。


……

そして、三人の天使達の背後からは

死神がその姿を現わす。

……
挟みうちにしたつもりかっ?

いや、あたしはあんた達と

戦う気は無いんだけどね

もちろん、あんた達次第だけど

死神を嵌めようとしたのも

あんた達なんだろ?

この世界の神に対して

随分な仕打ちをするじゃあないか

詫びの一つも入れたらどうなんだい?

うるせえ、俺達にとって、

神はただ一人だけだ

まぁ、そこは確かに

センシティブな問題ではあるけどね

でも、あんた達は表裏一体、

合わせ鏡のようなもんじゃあないか

多神教における魂の管理者『死神』
一神教における魂の管理者『天使』

外見は真逆、正反対であるにも関わらず、

魂の管理者という同じ役割を担う両者。

死神は同じ魂の管理者として、

天使達の暴走を止めようとしていたが、


天使達にはそれが疎ましく

死神を嵌めようとしたのだった。


あんた達も

こんなことはもうおよしよ

ここはあたし達が居た世界とは

違うんだよ

少し憂い顔の愛倫(アイリン)

もう帰ることは出来ない

滅び行く故郷への哀愁からか。

おめえも

魂が見えるサキュバスなら

わかるだろ?

あいつらは生きてるだけで

他の生命(いのち)

多大な迷惑を掛けちまうレベルの

生ゴミみてえな魂の持ち主なんだよ

あぁ、生きてることを

許しちゃいけねえ奴等だよ

魂が見えない人間達は、

罪を犯した者と無実の者を

見分けることが出来ず、


証拠や自白によって罪人を判断し

法に基づき処罰するが、


それは魂が見える彼等からすれば

何ともまどろっこしい

苛立つ行為にしか思えない。

その人間達が制度化した

裁きのプロセスを掻い潜り、


本来裁かれなくてはならない人間が

裁かれることもなく

のうのうと生きている、


天使達からすれば

それが我慢ならないのである。

あたしだって、

あんたらの気持ちは

分からなくはないけどね

ただね、それでも、

この世界では私刑はご法度なんだよ

そうここはどんな凶悪犯であっても

最低限の人権が保障される世界。


彼等が居た異世界とは

何もかもが根本的に違う。

私刑?
私刑なんかじゃねぇ

そうだこれは神罰だ、

この世界で言う天罰ってやつだっ

三人の天使達は

口々に反論する。

おや? あんた達、

それを言っちまっていいのかい?

不敵な笑みを浮かべる愛倫(アイリン)

それはあんた達の神が

あんた達に人間を殺せと命じたって

言ってるようなもんなんだよ?

この世界で言うなら

殺人教唆ってやつだね

今回はあんた達の独断専行なんだろ?

それをまるで神の意志みたいに

捏造発言しちゃあ

まずいんじゃないのかい?

あんた達、死神に

濡れ衣を着せただけじゃ飽き足らず、


自分達の神にまで

濡れ衣を着せる気なのかい?

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