神の濡れ衣を晴らす

文字数 2,180文字

あんた達、

こんなことしてないで


早く神のところに行って

許しを請うた方がいいんじゃあないのかい?

薄ら笑いを浮かべる愛倫(アイリン)

天使等は自分達の異変に焦っている。

これは一体、

どういうことだっ!?

あんた達が

知らない筈はないと思うんだけど

あんた達の神は

こちらの人間世界でも


一神教の神として

崇め奉られているんだろ? 昔から

一神教を名乗っている以上、


例え、異世界であろうが、

併行世界であろうが、異次元であろうが、


神は唯一の一柱でなければならない、

それが一神教に関わる者達のルール。

でもこの世界の人間達は

物質至上主義文明の

極みみたいなものだからね

本気で神を信仰している人間は

少ないんだよ、特にここ日本ではね

ここでの宗教ってのは

人間の生き方や有り様、

その指針ってところなのさ

だから神もあたし等の世界程

強権がある訳ではなくてね

神もとどの詰まりは

信者の多さが物を言うから、

まぁ人気商売みたいなもんなのかね

まずはこの世界での

神が置かれている状況から

説明をはじめた愛倫(アイリン)

そうした状況で、

連続突然死事件の真犯人が

あんた達天使だったってことが、

人間達の間に広まりはじめた

ネットなんてもんでも、

既に拡散されてるんだよ

さっきのあんた達の発言
あれ、サキュバスの娘達が、

こっそり動画に撮っておいて


SNSってので拡散しといたからね

それで、あんた達の神が

実は事件の黒幕なんじゃあないかと


人間達から疑われちまってる訳さ

この世界の言葉で言うなら

『絶賛炎上中』ってとこかね

ここで車が燃えてるのなんて、

まだまだ可愛いもんさね

世界中で大炎上だよ

このままだと

今いる信者達からの信頼ですら

失いかねないからね

この世界でこれ以上信者が減ったら

神としても致命傷になりかねない

なんでね、神としても、真犯人には

処罰を下さなくちゃならないんだよ

真犯人を処罰して、

破門して放逐しましたと

明白にしなくちゃならない

そうじゃないとそれこそ

信者を含め人間達が納得してくれない

だからあんた達の

堕天がはじまったって訳さ

あんた達は神の潔白を証明する為に

蜥蜴(トカゲ)の尻尾きり、

生贄にされたんだよ

人間じゃなくて天使が生贄にされるとか

随分と気が利いた冗談じゃあないか

口角を釣り上げ

悪魔的な微笑を浮かべる愛倫(アイリン)

それは美しくもあるが

やはりどこかに闇の眷属らしさがある。

てめえっ!
このクソビッチ!
なんてことしやがるっ!
三人の天使達は口々に罵った。

やだねぇ、むしろあたしは


あんた達の神の濡れ衣を

晴らしてあげようって言うんだよ


あんた達を捕まえることでね

その濡れ衣を着せたのは

あんた達なんだからね


愛倫(アイリン)からすれば


人間がいなければ

神も悪魔もサキュバスも存在し得ない筈という

自らの信条に基づいて、


概念的な決着を目論んでいたのだが、

天使達にはどうにも解せないらしい。

とりあえずお前達を倒して、

それから神に弁明させてもらうぜっ

おや、やっぱりそうなるのかい?

でも神の加護が弱まっているあんた達に

どこまでやれるのかねぇ?

深呼吸をする愛倫(アイリン)
――淫夢(いんむ)(せめ)
その言葉と共に歪む空間。

これはあんた達の奥底にある

欲望を具現化して、

攻撃手段にする術だからね

天使にどんな欲望があるのか

あたしもちょいとばかし

楽しみってもんさね

力が弱まっている天使達は

愛倫(アイリン)の術に掛かり、

自らが心に抱く神に痴態を晒しはじめる。

あぁっ、神よ、お許しくださいっ

……もっと罰を与えてから

もっと、もっと、叱ってくださいっ
もっと、きつくお仕置きしてくださいっ

神に自らお仕置きを懇願するドMな天使、

それが彼等の欲望ということになるのか。

こりゃまた随分と

おったまげるような話じゃあないかい

神にSM風のお仕置きを懇願する天使なんざあ


悪い冗談過ぎて笑えやしないよ

あんた達、この際、このまま

ささっと堕天しちまった方がいいよ


その後、今回の問題を起こした天使達は

許しを請う為に、一神教の神の元へと逃げて行った。

後は一神教の神が

相応の処断を下すだろうし

いずれにしても

天使達を捕まえたところで


人間の法で裁くことは出来ない現状、

強制送還というのが関の山、


どちらにしても大して変わりはないさね

それが慎之介と愛倫(アイリン)が下した判断であった。

この度は世話になったな

異世界から来た闇の眷族よ

その場に居た死神は

サキュバスである愛倫(アイリン)に礼を言う。

あぁ、あたし達は、

何千年単位の寿命だからね


この先もいろいろと

世話になると思うけど


こっちこそよろしくお願いするよ

人間の魂が見える者同士として、

死神とはこの先も長い付き合いになるだろう、

愛倫(アイリン)はそう直感していた。

ずっと思ってたんだけどね


あんたは随分と優しい

多神教の神なんだね

ここの人間達も時代と共に

随分と変わってしまっているからな

いつまでも昔のままという訳にも

いかないのだよ

こちらから人間に合わせて行くことも

必要ということかな

なるほどね


それで、そんな

西洋風な死神スタイルって訳かい

人間の持つイメージに合わせて

日本土着の死神もその姿を変えている

この世界ではやはり

人間が神に与えている影響は

少なくないということなのかね

この世界の人間達に

天罰や神罰を本気で信じてる者なんて

ほとんどいないも同然だからね

だから神でも炎上するし、

神にもコンプライアンスが必要ってことかね

そう言って苦笑する愛倫(アイリン)だった。
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