ソードマスター
文字数 1,594文字
片膝を着き、
相手に向かって頭を下げ、
平伏しているその男は
道着姿で手には竹刀が握られていた。
顔を上げた男の前に
立ちはだかるのは初老の紳士。
グレーの髪に髭を蓄え、
前合わせの着物風衣装に
ローブを羽織っており、
一見しだだけではこの世界の人間に思える。
この初老の紳士こそが、
ソードマスターその人。
そして、その前にいるのは
ソードマスターが現在
剣道有段者であり
腕に覚えがある若頭は、
屋敷の一角にある道場で
ソードマスターに
稽古の相手をしてもらっていたのだ。
組の中でももっぱら
硬派な狂犬とされている若頭も、
心から敬服する侠客の前では
まるで子供のような無邪気さを見せる。
若頭はタオルを手にし汗を拭う。
その若頭の言葉が
今のソードマスターの胸に
深く突き刺さる。
広い日本庭園に和風建築の屋敷。
そこがソードマスターが
用心棒として雇われている
マフィアのトップ、
大親分の私邸であり
組織の拠点でもあった。
日本庭園を眺めているソードマスター。
そして彼の腰に差してある日本刀。
本来であれば彼の
サムライソードと呼ばれる
日本刀に酷似した異世界の剣。
しかしこの世界に入国する際に、
サムライソードの所持は
銃刀法違反になるとして、
当局に剥奪されてしまっていた。
ソードマスターの名の通り
彼にとって剣は命にも等しく、
共に
サムライソードは自身の体の一部も同然。