第41話

文字数 2,589文字

「二人は似た者同士なのね。プレイボーイ同士だから気が合うってことかしら」

「それはちょっと心外。僕と幸也は似て無いよ。女遊びが多いって点は共通してるかもしれないけど、僕のと幸也のとでは質が違うから」

「はぁ?全然、分かりません。女から見たら同じよ」

 全く男って生き物は、と思う。

「そうだなぁ……。僕の女遊びの本質と、幸也の女遊びの本質の、中間辺りが久美ちゃんの男遊びの本質、かな」

「ぶっ!ちょっと、やめて。そこにアタシを引き合いに出さないで。純哉くん、酷いわよ?そもそも、男と女じゃ違い過ぎると思うんだけど」

(何を言い出すんだ、全く)

「まぁ、聞いてよ。成る程と思うから。僕のはね。体の関係も含めた、恋愛遊戯なの。ただ寝るだけじゃなくて、男女の愛の駆け引きとか機微とか、そういうのを楽しみながら肌を重ね合わすのが楽しいわけ。幸也はね。そういうのは全然無しなの。そういうの、面倒くさいみたいだね。ただ体の関係を求めるだけ。貪りたいだけなんだよ。だから、相手の事はお構いなし。結構、一方的なセックスだったんじゃない?で、久美ちゃんは、その中間。分かるでしょ?」

 そうか。そういう事なのか。

「成る程、納得?」

 悔しいが頷いた。
 そして少しだけ悲しい気がした。

 何故なら、真田が女を抱く時、そこに少しも気持ちが無いと言う事に気付いたからだ。
 少しでも、自分を女として気に入ってくれてるのかと思っていた。
 遊びであっても。

「ごめん、ショックが大きすぎたかな?幸也の事、好きだったんだもんね」

 純哉を見た。瞳に憐憫(れんびん)の情が浮かんでいる。
 久美子は首を振った。

「純哉くん、優しいね。私、純哉くんの方こそ、好きだよ」
「そっか……。じゃぁ、お礼にいっぱい愛してあげるよ」

 唇を重ね合わせた。
 ぷっくりとした唇が柔らかくて心地良い。

 洋服の衿に指がかかり、そっと手が中に忍び込んで来た。
 鎖骨の周辺で指が遊ぶ。

 乳房や局所で無い場所で、感じさせるのが上手い男だ。
 それにキスも上手い。

 久美子は脳の奥がジワジワと痺れてくるのを感じた。
 じっくりとゆっくりと高ぶらせ、焦らせ、体の隅々まで穿(ほじく)り返す。

「久美ちゃん……、僕も久美ちゃんが……、好きだよ……」

 息を洩らしながら言う様が酷く切ない感じがして、久美子はウットリした。

 純哉は優しい音を奏でるように、その唇で体中を愛撫し、最後に足を開いて顔を埋めた。
 スタッカートするように、舌が小刻みに動き、思わず大きな声が出てしまう。

「ああっぅ……」
 体が(よじ)れた。

「純哉くん……、ああっ……、すごく……」

 純哉が舌を外して体を起こし、久美子の顔を見ながら指を入れて来た。

「あっ!」
「どう?……気持ち、いい?」

 掻きまわされてよがった。

「ほらっ、久美ちゃん……、ほらっ」

 楽しそうな笑顔で、掻きまわしながら親指の腹で突起を突く。

「ああっ、いやっ……!んんっ……」

 気持ち良すぎて頭を振る。
 純哉の唇が久美子の口を塞ぎ、舌が口の中に入ってきた。
 貪るような激しいキスの嵐と、指攻めに、もはや久美子は為す術も無かった。


 しつこいくらい、何度もイカされて、純哉の広い胸の中でまどろむ。

「愛してるよ……、久美ちゃん……」

 久美子はそっと、純哉を見上げた。
 顎の下から見る純哉は、ミケランジェロのダビデ像のように顔がクッキリして見える。

「純哉くん……」

 本心ではないと知りながらも、そう言ってくれる事が心地良い。
 心が凪いでいく。

「ねぇ、久美ちゃん……。こんな事を言う権利、僕には無いって分かってるけど……」

「え?なぁに?」

「もうさぁ……。幸也とは、寝ないで欲しい」

 久美子の体が固まった。

「他の男は、別に構わない。久美ちゃんの好きにして。ただ、幸也だけは……」

「……どう、して?」

 声が強張る。
 純哉の顔が心なしか歪んだ。

「……多分、君が傷つく事になるから。それに、幸也にとっても良くないって思うから」

「どうして私が傷つくの?」

「だって、君、あいつに惚れてるじゃないか。さっき僕が言った事で、既に傷ついてる。このまま続けてたら、きっともっと傷つくよ」

 久美子は笑った。

「そっか。でもアタシ、純哉くんが思ってるほど、真田さんに惚れてるわけじゃないよ。確かに好きだけど、あの人にとって女はみんな慰み者に過ぎないんだって事は昔から知ってた事だし。ただちょっと、あまりにモノ的なんだなと思ってショック受けただけよ」

「本当に?」
 瞳の奥を覗き込むように見ている。

「うん」

「そっかぁ。だけど……あいつもさ。そろそろ、ああいう事は止めるべきなんだ。もう自分の気持ちに気付いてると思ったのにな。だから帰って来たんだと……」

「え?どういう事?」

 いきなり頬を叩かれたような気がした。

「……」
 純哉が黙っている。なぜだ。

「ねぇ、純哉くん。どういう事なの?やっぱり何か知ってるの?」

 純哉は暫く黙ったまま久美子を見ていたが、やがてフゥと小さく息を吐いた。

「知ってるって言うか……。どう言ったらいいのかな。簡潔に言ってしまえば、幸也はさ。芹歌ちゃんが好きなんだよ」

「え?……ええ?うそっ」

 突然の言葉に信じられない思いだ。

「やだ、だって、そんなの、信じられない」

「だろうね。多分、みんな、そうなんだろうね。唯一信じてくれそうなのは、恵子先生くらいなものかな」 

「どうして恵子先生が?」

「あの先生、鋭いし……。それに、幸也は留学中も、何度か日本公演してるでしょ。その時には必ず、恵子先生を通して芹歌ちゃんにチケットを配分してたんだ」

「ええ?芹歌は、いつも恵子先生から買わされるって言ってたけど」

「それ、幸也から頼まれてたからなの。実はさ。この間のチケットも、幸也が僕に頼んできたんだよね。恵子先生経由で買っても、結局一度も来ないものだから。僕経由で久美ちゃんと沙織ちゃんも一緒なら来るんじゃないかって」

 久美子は純哉が全くの他人になったような気がしてきた。

「じゃぁアタシ、利用されたって事なの?」
 声が自然と低くなった。

「久美ちゃん、ごめん。だけど、君が行く気無いって断ってきたら、また別の方法を考えたよ。無理に君を巻き込むつもりは無かったから。僕の大事なパートナーだしね」

 純哉はそう言って優しい笑みを浮かべると、久美子の肩を撫でた。

 久美子は何だか(しゃく)にさわったが、取り敢えず話しの先を聞く事にした。
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