第83話 第一節 覚醒 -一念ー
文字数 2,114文字
「さぁ、どうする?」テナンが聞いた。
「決まってる」ヤシマが言うと
「そうだ、決まってる」ハンガンが続く。
「私、母さんに会いたい」シーナが言うと
「まずはそれだよ」とアーサが括った。
すると「シーナ、疲れたら背負うぞ」ハンガンが言った。
「あーまたこれだ。過保護だよ、ハンガン」とチマナ。
「でもさ、シーナはずっと牢にいて足が萎えているんじゃないか?」テナンは尋ねた。
「過保護二人目!」とチマナが言い「テナン、じゃ私を背負わせて上げる」とテナンの背中に飛び乗ろうとした。
寸前で身をかわすと「お断りだよ。俺より元気な奴を背負う背中は俺にはない」とテナンは必至で逃げた。
チマナは追い回す。
皆は笑い、シーナはにこっと笑うとハンガンに向かって腕を広げた。
ハンガンはシーナを背負い歩き出した。
「やっと戻ってきたな…」とヤシマが嬉しそうに呟いた。
六人の道中は、何をしても何を話してもただただ楽しかった。
道すがら、これまでそれぞれに起きたことをシーナに伝えていき、またシーナも森から出て以降の中浜宗家での暮らしを五人に伝えた。
皆このひとときは、大きすぎる課題のことを忘れ、六人揃ってサナとバンナイに会える幸せに浸っていた。
六人の姿を見てバンナイとサナは喜んだ。
「こんなに早くに会えるとは…」とバンナイは驚くばかりだった。
秋も深まり、いつの間にか枯れ葉が舞う季節になっていた。
サナは、バンナイの献身的な看護で食事がとれるようになり、だいぶ血色がよくなっていたが、まだ起き上がることはできず寝台に横たわっていた。
しかしまなざしの強さは戻ってきていて、子どもたち一人ひとりをしっかりと見つめ、順番に手もとに来た子を見つめる度に涙を流した。
その手は弱々しくはあったが、それぞれの頬に触れ、皆サナの手に自分の手を重ねて涙した。
「大きくなったね」
発した声はこれだけだったが、サナの瞳は子どもたちの心を温かく包み込むに十二分な力を持っていた。
幸せな数日はあっという間に過ぎ、誰が言うともなく二人の住まいとなっているカンの家から離れた場所に来ていた。
六人は一様に、いつまでも二人の傍にいたい気持ちは強かったが、また一歩踏み出すときが来ていると感じていた。
最初に口を切ったのはシーナだった。
「みんなありがとう。私を助け出してくれて。もう会えないと思っていたみんなに会えて、母さんにも会えておやじ様にも会えて、私の生まれのことまで教えてもらえて、私すごく幸せ。本当にありがとう。私ね、私以外のみんなはなんてすごいんだろうっていつも思ってたの。何でもできて、みんなそれぞれすごいものを持っている。私は反対に何にもできなくて、だから私だけはみんなの本当の仲間じゃないんじゃないかなって思っていたの。でもこんな事が起きて、みんなが私の事も大切に思ってくれていたことがわかって、私、もう死んでもいいくらい幸せ。 だから私はこれからみんなに恩返しするって決めたの。私、修業する。みんなが私にしてくれたことを思い出せば、私もこれから自信をもって何でも頑張れる。ほんとだよ。だから長老様に会いたい」
初めてだった。シーナがこんなにはっきりと自分の想いや考えを伝えたのは…
これまでは、誰かが「シーナはこう?」と先回りして聞いてそれに応えることがほとんどだった。
しばらく五人は言葉が出なかった。
沈黙の後、最初に口を開いたのはアーサだった。
「シーナ…僕の方こそありがとう。いままでシーナは自分では気付かなかっただろうけど、大きな力で僕たちを守ってくれていたんだ。それは目に見える形ではなかったから、僕たちも気付かなかった。ごめん。長老様のところへは僕が一緒に行く。でもその前に絶対にやりたいことがあるんだ。それはシーナをシーナの実のおじいちゃんに会わせることだ。シーナの本当のお母さんは、あの年にたった一人でシーナを生んで力尽きてそこで亡くなった。生まれたばかりのシーナを助けたのは、そこに助けに来た母さんだよ。おじいちゃんはシーナを見ることもできなくて、もう死んでしまっているとずっと思い込んでいまも生きている。だからシーナに会えたらどんなに嬉しいか…。僕はシーナのおじいちゃんおばあちゃんに命を救われた。息子たち三人はすでに亡くなっていておばあちゃんも亡くなった。おじいちゃんにはもうシーナとたった一人生き残っている息子が一人しかいないんだ。 だから僕がおじいちゃんにできる恩返しは、シーナの姿を見てもらうことだけだ。だからお願いだ。一緒におじいちゃんに会いに行こう」
みんなは強く頷いた。
「シーナ、俺たちはみんなシーナの修業を応援する。近くで見守る。それはもうみんなで決めているんだ」
ハンガンのその言葉を聞いて、シーナの顔に光が差し込み、輝くような笑顔が現れた。
チマナが堪え切れずシーナを抱きしめた。
「おい、チマナ。シーナを壊すなよ」
近くにいたテナンが言うと、チマナの足がテナンの肩まで伸びてテナンは後ろに蹴り倒された。
「どっからでも来るんだな、もう!」
テナンは肩を擦ると、大きな笑い声が六人から湧き上がった。
「決まってる」ヤシマが言うと
「そうだ、決まってる」ハンガンが続く。
「私、母さんに会いたい」シーナが言うと
「まずはそれだよ」とアーサが括った。
すると「シーナ、疲れたら背負うぞ」ハンガンが言った。
「あーまたこれだ。過保護だよ、ハンガン」とチマナ。
「でもさ、シーナはずっと牢にいて足が萎えているんじゃないか?」テナンは尋ねた。
「過保護二人目!」とチマナが言い「テナン、じゃ私を背負わせて上げる」とテナンの背中に飛び乗ろうとした。
寸前で身をかわすと「お断りだよ。俺より元気な奴を背負う背中は俺にはない」とテナンは必至で逃げた。
チマナは追い回す。
皆は笑い、シーナはにこっと笑うとハンガンに向かって腕を広げた。
ハンガンはシーナを背負い歩き出した。
「やっと戻ってきたな…」とヤシマが嬉しそうに呟いた。
六人の道中は、何をしても何を話してもただただ楽しかった。
道すがら、これまでそれぞれに起きたことをシーナに伝えていき、またシーナも森から出て以降の中浜宗家での暮らしを五人に伝えた。
皆このひとときは、大きすぎる課題のことを忘れ、六人揃ってサナとバンナイに会える幸せに浸っていた。
六人の姿を見てバンナイとサナは喜んだ。
「こんなに早くに会えるとは…」とバンナイは驚くばかりだった。
秋も深まり、いつの間にか枯れ葉が舞う季節になっていた。
サナは、バンナイの献身的な看護で食事がとれるようになり、だいぶ血色がよくなっていたが、まだ起き上がることはできず寝台に横たわっていた。
しかしまなざしの強さは戻ってきていて、子どもたち一人ひとりをしっかりと見つめ、順番に手もとに来た子を見つめる度に涙を流した。
その手は弱々しくはあったが、それぞれの頬に触れ、皆サナの手に自分の手を重ねて涙した。
「大きくなったね」
発した声はこれだけだったが、サナの瞳は子どもたちの心を温かく包み込むに十二分な力を持っていた。
幸せな数日はあっという間に過ぎ、誰が言うともなく二人の住まいとなっているカンの家から離れた場所に来ていた。
六人は一様に、いつまでも二人の傍にいたい気持ちは強かったが、また一歩踏み出すときが来ていると感じていた。
最初に口を切ったのはシーナだった。
「みんなありがとう。私を助け出してくれて。もう会えないと思っていたみんなに会えて、母さんにも会えておやじ様にも会えて、私の生まれのことまで教えてもらえて、私すごく幸せ。本当にありがとう。私ね、私以外のみんなはなんてすごいんだろうっていつも思ってたの。何でもできて、みんなそれぞれすごいものを持っている。私は反対に何にもできなくて、だから私だけはみんなの本当の仲間じゃないんじゃないかなって思っていたの。でもこんな事が起きて、みんなが私の事も大切に思ってくれていたことがわかって、私、もう死んでもいいくらい幸せ。 だから私はこれからみんなに恩返しするって決めたの。私、修業する。みんなが私にしてくれたことを思い出せば、私もこれから自信をもって何でも頑張れる。ほんとだよ。だから長老様に会いたい」
初めてだった。シーナがこんなにはっきりと自分の想いや考えを伝えたのは…
これまでは、誰かが「シーナはこう?」と先回りして聞いてそれに応えることがほとんどだった。
しばらく五人は言葉が出なかった。
沈黙の後、最初に口を開いたのはアーサだった。
「シーナ…僕の方こそありがとう。いままでシーナは自分では気付かなかっただろうけど、大きな力で僕たちを守ってくれていたんだ。それは目に見える形ではなかったから、僕たちも気付かなかった。ごめん。長老様のところへは僕が一緒に行く。でもその前に絶対にやりたいことがあるんだ。それはシーナをシーナの実のおじいちゃんに会わせることだ。シーナの本当のお母さんは、あの年にたった一人でシーナを生んで力尽きてそこで亡くなった。生まれたばかりのシーナを助けたのは、そこに助けに来た母さんだよ。おじいちゃんはシーナを見ることもできなくて、もう死んでしまっているとずっと思い込んでいまも生きている。だからシーナに会えたらどんなに嬉しいか…。僕はシーナのおじいちゃんおばあちゃんに命を救われた。息子たち三人はすでに亡くなっていておばあちゃんも亡くなった。おじいちゃんにはもうシーナとたった一人生き残っている息子が一人しかいないんだ。 だから僕がおじいちゃんにできる恩返しは、シーナの姿を見てもらうことだけだ。だからお願いだ。一緒におじいちゃんに会いに行こう」
みんなは強く頷いた。
「シーナ、俺たちはみんなシーナの修業を応援する。近くで見守る。それはもうみんなで決めているんだ」
ハンガンのその言葉を聞いて、シーナの顔に光が差し込み、輝くような笑顔が現れた。
チマナが堪え切れずシーナを抱きしめた。
「おい、チマナ。シーナを壊すなよ」
近くにいたテナンが言うと、チマナの足がテナンの肩まで伸びてテナンは後ろに蹴り倒された。
「どっからでも来るんだな、もう!」
テナンは肩を擦ると、大きな笑い声が六人から湧き上がった。