第95話 第一節 『アーサの歴史書より』 ー抜粋ー 

文字数 1,163文字

アーサの歴史書抜粋
 【遥か数万年の昔、天界では荒ぶる虎が暴虐の限りを尽くしていた。
 そのため地上では天災戦禍が絶えず、人々は飢え疲弊し争いが日々起こっていた。
 見かねた者が荒ぶる虎の魂の鎮めのための荒行を始めた。
 一人山に籠り険峻な獣道を登り、頂上で祈祷瞑想後祝詞を唱えながら下山、風雨寒暑問わず続き、睡眠は一日三時間の荒行だった。
 挫折者が続出する中、透視力を得た者がいた。
 それが呪術師の祖となり家系となった。
 一子相伝が成され様々な呪術が生まれた。
 荒ぶる虎は、天界の怒りをかい病に伏した。
 天界はこれをこれまでの報いとした。 
 呪術師の荒行では癒えず、地上では一層飢饉や天災が増えた。
 荒ぶる虎が守る地の王は、国を独裁支配したが土地が疲弊し弱体化したため他国侵略を目論んだ。
 王が目を付けたのは、隣の緑成す豊かな国『あいわ国』だった。
 白蛇が守る「あいわ国」は人々が相和し暮らしていた。
 人々は白蛇神を信仰し、支配者はなく時折り生まれる『白蛇の力宿す者』がその時代の課題に対処した。
 侵略を目論む王はあいわ国に何度も攻め入ろうとするが、そのたびそれを阻む内乱や天災、事件が起きた。
 業を煮やした王は、あいわ国の秘密を探るべく密偵を潜入させた。
 民の秘密を知るや陰謀を巡らしその画策により、あいわ国は侵略され消失した。
 民は奴婢へと貶められ、移民のために働く日々となった。
 天界では、長く病に苦しみ瀕死の虎に白蛇が現れ水を運んだ。
 その水は神界の遠い森にある青き湧き水であり、神の心宿す清水だった。
 その水には病を癒す力があった。
 病に苦しむ虎はその水を飲むとたちまち病が消え回復した。
 虎は白蛇に深く頭を下げた。すると虎の姿は青に変わっていった。
 同時に虎は心優しき虎になった。
 地上の水に天界の出来事が映り地に歌が生まれた。
 歌は伝説歌となって長く歌い継がれていった。
 あいわ国の民が奴婢となって千年のときが流れ、ゆっくりと白蛇神は深き森に降った。以降この森には不思議な力が働き、立ち入れば命がなくなる『おそろしの森』となった。
 優しき神となった青虎は、王や民が心清き民を貶め蔑み踏みつける様を憂い、救いの魂を送り込んだ。
『身の内に青虎飼う者』として送ったが、民の積年の悪しき所業の霊威が呪術師に働き予言を漏らさせた。
 王は予言を阻止するべく多くの赤子の命を亡きものにした。
 青虎は、それまでに鷹を使いとして呪術師に送っていた。
 鷹は呪術師の娘を導き六つの魂を守り、白蛇神である『おそろしの森』に隠した。
 そして
『地に生まれ森に集いし六芒星
大地に広がり、縮み縮み、縮みしとき
地は源に還る』
の歌を秘かに呪術師の娘の記憶に送り十五年の後、世に放った。
 その後白蛇は天界へと昇り『おそろしの森』は『癒しの森』となった】

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