第63話 第二節 辿り着いた真実 ー知らせー
文字数 1,886文字
アーサは毎日耳にする神前での歌に、徐々に懐かしさを感じるようになっていた。
どうして懐かしいのかわからなかったが、どこかで聴いたような気がしていた。
数日して深夜に森を訪ねてきた若者からもたらされた知らせは、驚くべきものだった。
それは「現王がある若者の一矢で射られその後亡くなった」というものだった。
国を挙げての演舞会の会場で起こった出来事が、人の口の葉に乗り奴婢村にまで伝わってきたのだ。
一人の少女を大きな白蛇がとぐろを巻いて覆いつくしたこと、その少女を守ろうとした別の少女が青虎に姿を変え王軍と戦ったことも盛り込まれていた。
「白蛇さまが姿を現されるとは。そのような話は聞いたことがない…」老人は唸った。
「長老さま、もしや話に出てきた少女は『白蛇さまの力宿す者』なのではありませんか? あのときの赤子は生きていた。私達のようにいままで何者かによって育てられて、それが演舞会に現れた…」
アーサは知らせを聞いて以来、得体の知れぬ胸騒ぎが続いていた。
「まさかそんなことが!」老人のまなざしが強くなった。
「はい。まさかとは思いますが、そう考えると今回の件は納得できます。まぁこの話は実際に目にしないと信じられないものばかりですが。とにかく育ての親であるバンナイとサナは、あの年に生まれた私達一人ひとり救い出して『おそろしの森』で一緒に育ててくれました。それでその中に二人女の子がいます。一人はチマナといいもう一人はシーナと言い…」と言い終わらないうちに長老は割って入った。
「何? シーナ?」
「はい」
「シーナはお前さんがここで何度も食べてきた芋の名前だ。シーナを食べるだけで何日も働く力になる。奴婢村の秘伝の食べ物だ。お前さんを助けた夫婦の嫁が子を産んで亡くなったところはシーナの畑だった。赤子を救い連れ去った者が赤子の母親からいまわの際にそれを聞いていたとしたら…」
老人はへなへなと座り込んだ。
こんなに取り乱す長老をアーサは初めて見た。
「シーナは、畑で生まれた『白蛇の力宿す者』に間違いありません!」
アーサは興奮を抑えられなかった。
さらに次の瞬間アーサの頭の中でカチリと符号が一致した。
そうだ長老様が神前で歌う歌は……
シーナの歌だ!
とうとう思い出した。
なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだろう。こんなに近くに答えがあったのに。
思い出した喜びといままで思い出せなかった歯痒さが入り混じった複雑な思いだった。
あの歌に懐かしさを感じたのは、シーナが歌っていたものに似ていたからだった。
知りたかった数々の謎の中に仲間の生まれがあった。
そしてなぜ助けられたのが僕たち六人なのか…
そこには深い理由があるはずだ。それが一番知りたかったことだった。
いま秘密の扉が一枚開いた。
シーナの生まれたときの様子がいまありありとアーサの目の前に広がっていた。
アーサは身震いした。もう有頂天だった。
仲間がいたら転げ回って一緒に喜んだだろう。
めったに崩したことのない表情をくしゃくしゃにしてアーサは喜んだ。
「知らぬ間に力を開き使っていたのだな。白蛇さまの力宿す者の名はシーナ」
長老はゆっくりと言った。
シーナが無事でいたこともわかってそれも嬉しかった。一番心配だったのだ。
二人ともに喜びで興奮していたが、しばらくして落ち着きを取り戻した長老が言った。
「なぜ白蛇様が大蛇となって現れたのか…アーサ殿、これは大事かもしれん。もうここまで噂がとどいているとなると、すぐさま力宿す者シーナを探し出して保護しないと、誰かにその力を利用されるかもしれん。アーサ殿はこれからどうする気だ」
「私はまだ知りたいことがたくさんあります。人が青虎に変わるなど信じられないことです。青虎のことはご存じないのですか?」
「前にも言ったが、わしが教えられるのはこの地に元からいた者のことだけだ。伝説があるらしいが、それはこの地のものではない。そうだな…こんな話だったかな」
長老は記憶の糸を引っ張り出そうと宙を仰ぎながら話し始めた。
「病に侵された虎が白蛇に会い導かれ、湧水を飲んだところ、虎の体の色が青く変わり本復した…という話らしい」
「演舞会では、白蛇とシーナが切り付けられるのを庇った少女が切られ、青虎に変わった。白蛇を助けに行った青虎…」
アーサは出来事を反芻し整理した。
「白蛇様や青虎が姿を現す。これは何かが起きている、もしくは何かが起こる兆候かもしれん。この地の民たちが立ち上がるとき……」
アーサには長老の最後の言葉の意味がわからなかった。
どうして懐かしいのかわからなかったが、どこかで聴いたような気がしていた。
数日して深夜に森を訪ねてきた若者からもたらされた知らせは、驚くべきものだった。
それは「現王がある若者の一矢で射られその後亡くなった」というものだった。
国を挙げての演舞会の会場で起こった出来事が、人の口の葉に乗り奴婢村にまで伝わってきたのだ。
一人の少女を大きな白蛇がとぐろを巻いて覆いつくしたこと、その少女を守ろうとした別の少女が青虎に姿を変え王軍と戦ったことも盛り込まれていた。
「白蛇さまが姿を現されるとは。そのような話は聞いたことがない…」老人は唸った。
「長老さま、もしや話に出てきた少女は『白蛇さまの力宿す者』なのではありませんか? あのときの赤子は生きていた。私達のようにいままで何者かによって育てられて、それが演舞会に現れた…」
アーサは知らせを聞いて以来、得体の知れぬ胸騒ぎが続いていた。
「まさかそんなことが!」老人のまなざしが強くなった。
「はい。まさかとは思いますが、そう考えると今回の件は納得できます。まぁこの話は実際に目にしないと信じられないものばかりですが。とにかく育ての親であるバンナイとサナは、あの年に生まれた私達一人ひとり救い出して『おそろしの森』で一緒に育ててくれました。それでその中に二人女の子がいます。一人はチマナといいもう一人はシーナと言い…」と言い終わらないうちに長老は割って入った。
「何? シーナ?」
「はい」
「シーナはお前さんがここで何度も食べてきた芋の名前だ。シーナを食べるだけで何日も働く力になる。奴婢村の秘伝の食べ物だ。お前さんを助けた夫婦の嫁が子を産んで亡くなったところはシーナの畑だった。赤子を救い連れ去った者が赤子の母親からいまわの際にそれを聞いていたとしたら…」
老人はへなへなと座り込んだ。
こんなに取り乱す長老をアーサは初めて見た。
「シーナは、畑で生まれた『白蛇の力宿す者』に間違いありません!」
アーサは興奮を抑えられなかった。
さらに次の瞬間アーサの頭の中でカチリと符号が一致した。
そうだ長老様が神前で歌う歌は……
シーナの歌だ!
とうとう思い出した。
なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだろう。こんなに近くに答えがあったのに。
思い出した喜びといままで思い出せなかった歯痒さが入り混じった複雑な思いだった。
あの歌に懐かしさを感じたのは、シーナが歌っていたものに似ていたからだった。
知りたかった数々の謎の中に仲間の生まれがあった。
そしてなぜ助けられたのが僕たち六人なのか…
そこには深い理由があるはずだ。それが一番知りたかったことだった。
いま秘密の扉が一枚開いた。
シーナの生まれたときの様子がいまありありとアーサの目の前に広がっていた。
アーサは身震いした。もう有頂天だった。
仲間がいたら転げ回って一緒に喜んだだろう。
めったに崩したことのない表情をくしゃくしゃにしてアーサは喜んだ。
「知らぬ間に力を開き使っていたのだな。白蛇さまの力宿す者の名はシーナ」
長老はゆっくりと言った。
シーナが無事でいたこともわかってそれも嬉しかった。一番心配だったのだ。
二人ともに喜びで興奮していたが、しばらくして落ち着きを取り戻した長老が言った。
「なぜ白蛇様が大蛇となって現れたのか…アーサ殿、これは大事かもしれん。もうここまで噂がとどいているとなると、すぐさま力宿す者シーナを探し出して保護しないと、誰かにその力を利用されるかもしれん。アーサ殿はこれからどうする気だ」
「私はまだ知りたいことがたくさんあります。人が青虎に変わるなど信じられないことです。青虎のことはご存じないのですか?」
「前にも言ったが、わしが教えられるのはこの地に元からいた者のことだけだ。伝説があるらしいが、それはこの地のものではない。そうだな…こんな話だったかな」
長老は記憶の糸を引っ張り出そうと宙を仰ぎながら話し始めた。
「病に侵された虎が白蛇に会い導かれ、湧水を飲んだところ、虎の体の色が青く変わり本復した…という話らしい」
「演舞会では、白蛇とシーナが切り付けられるのを庇った少女が切られ、青虎に変わった。白蛇を助けに行った青虎…」
アーサは出来事を反芻し整理した。
「白蛇様や青虎が姿を現す。これは何かが起きている、もしくは何かが起こる兆候かもしれん。この地の民たちが立ち上がるとき……」
アーサには長老の最後の言葉の意味がわからなかった。