第39話 第四節 舞と歌 ー舞ー ー声ー
文字数 1,562文字
ー舞ー
チマナの舞は、至るところで評判になっていき、その人気はうなぎのぼりだった。
いまや『天女如心』は、この劇団にとって人を集め金が集まる代名詞になっていた。
チマナは親方に対して対等に口をきき、少女たちを理不尽な扱いから守った。
舞人の中で一番幼い九歳の少女ナツは、どこかシーナを思わせた。
いくら教えても動きを覚えられずいつも怯えていた。
動きは鈍く笑顔もなく足を打たれては黙って涙を流していた。
皆が眠るころ、チマナはナツに動きを丁寧に教えた。
すると翌日にはなんとか覚えて親方の前で踊ってみせた。
私は、森の中をみんなと走り回ってくたくたになるほど動いていたから皆より踊れるのかもしれない。
始めから舞の動きは身体に馴染んだ。
他の少女が痛がる姿勢や動きをとることも、息を切らす程の激しい運動を連続して行わなければならないこともチマナにとっては何でもなかった。
周囲から見ればチマナの体力や柔軟性は並外れて優れていたのだ。
小さいときは仲間とよく喧嘩をした。
負けず嫌いだったから、負けたとわかっても勝ったと言い張った。
成長してシーナと私の二人が女の子だとわかるようになっても男の子達に挑んでいった。
幼い頃は負けず嫌い同士、ヤシマと特にぶつかった。
でもそのうちヤシマは全く相手にしてくれなくなって挑んでも簡単に振り払われた。
テナンやアーサの二人は、最近まで相手になってくれていた。
足をかけたり取ったり意表を突く作戦に出ると簡単に転んでくれた。
まだできることを見せたくてしつこく挑んでいった。
ハンガンは最初から大きくて優しくて手加減の名人だったから張り合いがなかったな…
テナンは最後まで口喧嘩の絶好の相手だったから、たくさん悪口を言い合った。
シーナは目を丸くして首を左右に振りながら聞いていたっけ。
アーサは理屈を言って言いくるめようとするけどなんだか意味がわからなくなって、テナンと一緒にアーサに文句言い始めてたなぁ。
そういうときのアーサの顔ったらおかしかったなぁ。
ハンガンはお兄さんぶってみんなにいろいろな事を優しく教えていたけど、結構抜けてて逆の事を言ってることもあったりした。そんなときは大きな体を小さくして謝ってたな。
責任感が強くて自分が泣くところは見せないようにしていたし、シーナには一番優しかった。
シーナはハンガンがそばにいると安心していつも笑っていたなぁ…
シーナはどうしているのだろう。
どうか無事でいてくれますように…
チマナは念じた。
毎日練習でくたくたになって夜はころりと眠ってしまうけど、ふと気が付くと一緒に育った仲間のことを思い出している。
小さいときのこと、最近のこと混ざり合って思い出すのだ。
私達はもう会えないの?…
そう投げかけるときチマナの頬は一筋濡れていた。
ー声ー
中浜宗家にいるシーナは声がだんだん出なくなっていた。
王宮で歌ったときはまだ声は出ていたが、このようになったのはサンコから演舞会が開かれるので一緒に出るように言われてからだ。
本当にこのままでいいのだろうか…
得体のしれない不安は日々大きくなり、一人ではこの不安に耐えられないと思ったとき、ハンナに勇気を振り絞りそのことを伝えてみた。
「あのハンナ様。私はルアン様に歌を聴いていただくことはとても光栄で嬉しくありがたく思っています。でも大きな宴や王宮で歌うのは怖くて仕方がありません。あの、だんだん声が出なくなっています。どうか私をお屋敷から出してください」
ハンナは長い沈黙の後、暗く沈んだ表情で言った。
「シーナ、あなたの希望は通らないのよ。あなたはこの家のために歌うの。だから声を治すのよ。あなたがすることは歌うことだけなの」
シーナには、前にも後ろにも道はなかった。
チマナの舞は、至るところで評判になっていき、その人気はうなぎのぼりだった。
いまや『天女如心』は、この劇団にとって人を集め金が集まる代名詞になっていた。
チマナは親方に対して対等に口をきき、少女たちを理不尽な扱いから守った。
舞人の中で一番幼い九歳の少女ナツは、どこかシーナを思わせた。
いくら教えても動きを覚えられずいつも怯えていた。
動きは鈍く笑顔もなく足を打たれては黙って涙を流していた。
皆が眠るころ、チマナはナツに動きを丁寧に教えた。
すると翌日にはなんとか覚えて親方の前で踊ってみせた。
私は、森の中をみんなと走り回ってくたくたになるほど動いていたから皆より踊れるのかもしれない。
始めから舞の動きは身体に馴染んだ。
他の少女が痛がる姿勢や動きをとることも、息を切らす程の激しい運動を連続して行わなければならないこともチマナにとっては何でもなかった。
周囲から見ればチマナの体力や柔軟性は並外れて優れていたのだ。
小さいときは仲間とよく喧嘩をした。
負けず嫌いだったから、負けたとわかっても勝ったと言い張った。
成長してシーナと私の二人が女の子だとわかるようになっても男の子達に挑んでいった。
幼い頃は負けず嫌い同士、ヤシマと特にぶつかった。
でもそのうちヤシマは全く相手にしてくれなくなって挑んでも簡単に振り払われた。
テナンやアーサの二人は、最近まで相手になってくれていた。
足をかけたり取ったり意表を突く作戦に出ると簡単に転んでくれた。
まだできることを見せたくてしつこく挑んでいった。
ハンガンは最初から大きくて優しくて手加減の名人だったから張り合いがなかったな…
テナンは最後まで口喧嘩の絶好の相手だったから、たくさん悪口を言い合った。
シーナは目を丸くして首を左右に振りながら聞いていたっけ。
アーサは理屈を言って言いくるめようとするけどなんだか意味がわからなくなって、テナンと一緒にアーサに文句言い始めてたなぁ。
そういうときのアーサの顔ったらおかしかったなぁ。
ハンガンはお兄さんぶってみんなにいろいろな事を優しく教えていたけど、結構抜けてて逆の事を言ってることもあったりした。そんなときは大きな体を小さくして謝ってたな。
責任感が強くて自分が泣くところは見せないようにしていたし、シーナには一番優しかった。
シーナはハンガンがそばにいると安心していつも笑っていたなぁ…
シーナはどうしているのだろう。
どうか無事でいてくれますように…
チマナは念じた。
毎日練習でくたくたになって夜はころりと眠ってしまうけど、ふと気が付くと一緒に育った仲間のことを思い出している。
小さいときのこと、最近のこと混ざり合って思い出すのだ。
私達はもう会えないの?…
そう投げかけるときチマナの頬は一筋濡れていた。
ー声ー
中浜宗家にいるシーナは声がだんだん出なくなっていた。
王宮で歌ったときはまだ声は出ていたが、このようになったのはサンコから演舞会が開かれるので一緒に出るように言われてからだ。
本当にこのままでいいのだろうか…
得体のしれない不安は日々大きくなり、一人ではこの不安に耐えられないと思ったとき、ハンナに勇気を振り絞りそのことを伝えてみた。
「あのハンナ様。私はルアン様に歌を聴いていただくことはとても光栄で嬉しくありがたく思っています。でも大きな宴や王宮で歌うのは怖くて仕方がありません。あの、だんだん声が出なくなっています。どうか私をお屋敷から出してください」
ハンナは長い沈黙の後、暗く沈んだ表情で言った。
「シーナ、あなたの希望は通らないのよ。あなたはこの家のために歌うの。だから声を治すのよ。あなたがすることは歌うことだけなの」
シーナには、前にも後ろにも道はなかった。