第58話 第一節 なぜそこに ー追走ー
文字数 1,443文字
ハンガンの足は青虎がかけていった道へと向かっていた。
いまはヤシマとチマナの消息を確かめたかった。 だから青虎を追う。
そうすれば二人を助けることができるとハンガンは確信していた。
一刻も早く二人にたどり着きたい。逸る気持ちを抑えてひたすら山道を急いだ。
あの日囚われ人を助け出すため、りりたち一行を追ってヤシマと通ったこの道を今度はヤシマを追いかけて走っている。
夕焼け空が美しく、ヤシマの無事を祈りシ―ナとチマナの無事を想ってハンガンは走った。
頬が溢れくる涙で濡れていることも気付かず先を急いだ。
山道に入り、長い草たけをかき分けながら進むと人が倒れていた。
点々とそれは続き皆武人だった。
王を射た者を追いかけてここまで来たのだ。そして次々討たれていった者たち。
先に進むにつれて足元に気をつけなければならないほどに倒れている人の数が多くなっていた。
ヤシマらしき人物はいないことにほっとしながら、どんな戦いがあったのか思いを馳せた。
日が落ちたが月明かりと星明りで先は見えた。
時間が経つにつれ星はその数を増した。
すると少し広い山道の脇にある木の根もとに、木に身体を預け座り込んでいる人影が目に入った。
まだ息があるようだ。
茫然と星空を見ておりハンガンが近づいていることにも気がつかない様子だ。
目を凝らすともう一人、その人物の前に横たわっている真っ白い身体が見える。
「ヤシマ」と呼びかけた。
ゆっくりと首を回す鈍い動きの人物はまさしくヤシマだった。
「ヤシマ、大丈夫か」
腑抜けのようになっているヤシマにハンガンは飛び付いた。
足元に横たわっているのは……
チマナだった。
「追いかけてきたんだ、青虎が…チマナが俺を助けるために」
こんなヤシマを見たことがない。
「チマナを…チマナを…見てやってくれ」
今日一日いろいろなことがありすぎた。
いつもは何にも動じない冷静なヤシマがここまで自分を失っている。
何もかも忘れて眠ることがいまのヤシマには必要だとハンガンは感じた。
全ては明日以降だ。
ハンガンはチマナの首筋に手を当て脈があることを確かめると、心の底から安堵した。
チマナは無事だと信じてはいたが、この目で確かめるまで不安があった。
チマナは青虎だった。
青虎が生きているならチマナも無事だ。そう考えていた。本当に良かった。それで十分だ。
しかしチマナの身体は相当冷えていた。
「ヤシマ、安心しろ。チマナは俺が見るからお前は眠れ。ただ少しの間チマナが冷えないように身体を付けていてくれ。冷えているんだ。このままでは凍える。俺はチマナを覆う物を探してくるから、その間寒さからチマナを守ってやってくれ。 頼む」
ヤシマはうろたえた。森で仲間同士との接触をずっと避けてきたからだ。
小さい頃サナに抱っこされたヤシマだが、他の者から触れられることはあっても自分から触れることはほとんどなかった。
ハンガンは、チマナをすっぽりと包みこめる布を用意するため、多くの武人の亡骸から一つずつ衣類を脱がせた。一人ひとりに手を合わせて。
戻ってくると、ヤシマは自分の服を脱ぎチマナにかけチマナを抱きかかえて眠っていた。
よほど疲れているのだろう。ハンガンが近づいても気づく気配もなかった。
ハンガンはチマナの白い身体を全く見ることなく、手探りで袖を通し履物を履かせ苦労してチマナに服を着せた。
あとは二人が目覚めるまで見張りをする。
いま二人を守れるのは自分だけだから。
いまはヤシマとチマナの消息を確かめたかった。 だから青虎を追う。
そうすれば二人を助けることができるとハンガンは確信していた。
一刻も早く二人にたどり着きたい。逸る気持ちを抑えてひたすら山道を急いだ。
あの日囚われ人を助け出すため、りりたち一行を追ってヤシマと通ったこの道を今度はヤシマを追いかけて走っている。
夕焼け空が美しく、ヤシマの無事を祈りシ―ナとチマナの無事を想ってハンガンは走った。
頬が溢れくる涙で濡れていることも気付かず先を急いだ。
山道に入り、長い草たけをかき分けながら進むと人が倒れていた。
点々とそれは続き皆武人だった。
王を射た者を追いかけてここまで来たのだ。そして次々討たれていった者たち。
先に進むにつれて足元に気をつけなければならないほどに倒れている人の数が多くなっていた。
ヤシマらしき人物はいないことにほっとしながら、どんな戦いがあったのか思いを馳せた。
日が落ちたが月明かりと星明りで先は見えた。
時間が経つにつれ星はその数を増した。
すると少し広い山道の脇にある木の根もとに、木に身体を預け座り込んでいる人影が目に入った。
まだ息があるようだ。
茫然と星空を見ておりハンガンが近づいていることにも気がつかない様子だ。
目を凝らすともう一人、その人物の前に横たわっている真っ白い身体が見える。
「ヤシマ」と呼びかけた。
ゆっくりと首を回す鈍い動きの人物はまさしくヤシマだった。
「ヤシマ、大丈夫か」
腑抜けのようになっているヤシマにハンガンは飛び付いた。
足元に横たわっているのは……
チマナだった。
「追いかけてきたんだ、青虎が…チマナが俺を助けるために」
こんなヤシマを見たことがない。
「チマナを…チマナを…見てやってくれ」
今日一日いろいろなことがありすぎた。
いつもは何にも動じない冷静なヤシマがここまで自分を失っている。
何もかも忘れて眠ることがいまのヤシマには必要だとハンガンは感じた。
全ては明日以降だ。
ハンガンはチマナの首筋に手を当て脈があることを確かめると、心の底から安堵した。
チマナは無事だと信じてはいたが、この目で確かめるまで不安があった。
チマナは青虎だった。
青虎が生きているならチマナも無事だ。そう考えていた。本当に良かった。それで十分だ。
しかしチマナの身体は相当冷えていた。
「ヤシマ、安心しろ。チマナは俺が見るからお前は眠れ。ただ少しの間チマナが冷えないように身体を付けていてくれ。冷えているんだ。このままでは凍える。俺はチマナを覆う物を探してくるから、その間寒さからチマナを守ってやってくれ。 頼む」
ヤシマはうろたえた。森で仲間同士との接触をずっと避けてきたからだ。
小さい頃サナに抱っこされたヤシマだが、他の者から触れられることはあっても自分から触れることはほとんどなかった。
ハンガンは、チマナをすっぽりと包みこめる布を用意するため、多くの武人の亡骸から一つずつ衣類を脱がせた。一人ひとりに手を合わせて。
戻ってくると、ヤシマは自分の服を脱ぎチマナにかけチマナを抱きかかえて眠っていた。
よほど疲れているのだろう。ハンガンが近づいても気づく気配もなかった。
ハンガンはチマナの白い身体を全く見ることなく、手探りで袖を通し履物を履かせ苦労してチマナに服を着せた。
あとは二人が目覚めるまで見張りをする。
いま二人を守れるのは自分だけだから。