第8話 第三節 学びを求めて ー大嵐ー

文字数 708文字

 激しい悪寒で目が覚めた。
 吹き付ける強風と雨は、轟音とともに森の奥に入ったアーサにも情け容赦なく吹き付けていた。
 頭が痛く吐き気もするし、目は開かず朦朧としていた。
 周囲の木々は強風に煽られ、哀れに枝葉を大きく揺らし太い幹までもが今にも折れそうに見えた。
  森といえども安全な場所ではないのだ。
 自分がいていい場所などどこにもない。
 ぼろぼろの衣服はいまにも風ではがされそうだった。
 眠ることさえ許されないのか…
 風がうなりを上げ猛烈な暴風雨になってきた。
 これほどの雨は育った森でも経験したことがない。
 それもそのはず、ここ百年起きたことのない国土全体を揺るがす規模の大嵐だった。
 このまま横になってはいられない。なんとか安全な場所に移動しなければ。
 どこだ、どこに行けばいい。
 自分は知識で自分の身を守り生き抜いていく、それができると信じていた。
 しかしいざ育った森を出れば学べる場所も探せず、人から疎まれて嵐をやり過ごすことさえできない。
 アーサは生まれて初めて自分の無力さを痛感した。
 懸命に立ち上がったが、風に押されて簡単に膝から崩れた。
 何度立ち上がってもよろけて、立ち上がるだけで息が上がり咳き込んだ。
 何とか立ち上がり、木々の間を伝い歩くように進んでいくと足もとに濁った水が勢いよく流れてきた。
 それはみるみるうちに大きな流れとなり、アーサの行く手を阻んだ。
 自分が見ているものは絶望だ。
 絶望はいま自分を飲み込むほどの勢いを持ち、自分に迫っている。
 「ボチャン」
 大きな音を聞いた。それは自分が濁流に飲み込まれる音だった。
 アーサは息が苦しくなって上も下もわからなくなり、そして意識を失った。
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