第18話 第七節 『おそろしの森』 ー国…ー
文字数 1,571文字
この国は、大きく広がる未踏の樹海『おそろしの森』を背負うように丘の頂上に建つ宮殿から、放射状に十一の大きな通りが海に向かって真っ直ぐに伸びている。
頂上の宮殿から広がる丘陵には王直属の武人『王の耳』『王の矢』族が暮らしている。
武人の中でも選りすぐりの者たちで作られた王の信厚き者たちだった。
丘から平地になると、『王の頭』と称する十一の貴族が王宮を囲むように広がり、広大な敷地に当主の家族親族とそれを守護する多くの武人家人を召し抱え暮らしていた。
彼らはそれぞれ大通りを境にして広がる領地、そこに暮らす各階層の民を管轄所有していた。
南に下っていくと、高く大きな黒門により貴族領と商人職人町とが仕切られ、その出入りは門番によって守られていた。
貴族領を一歩出ると、商人と職人がひしめくように家を連ね多くの民衆が暮らすにぎやかな街並みが広がっていた。
さらに進めば農地や牧地が扇状に広がっていた。
小作人を束ねるのは田畑を区画しそれぞれを管轄する地主で、小作人を働かせることで地主は税を納めていた。
税は重く、地主たちは小作人から収穫の大半を集め税として所轄の貴族に規定の量を納めると、残りの作物をくすね職人商人に売り金銭に替えていた。
収穫の大半を持っていかれる小作人達はといえば、それぞれ固有の奴婢を持ち田畑近くに住まわせ重労働を強いていた。
海に近くなると、漁民が村を作り元締めが漁師を束ねていた。
またその漁民もそれぞれに多くの奴婢を持ち、海近くに住まわせ重労働をさせていた。
貴族領と商人職人が暮らす街とを隔てるのは、国を横に貫く通りだった。
町人領と農民領との境にも同様に通りが造られていた。
この縦横の通りがこの国の物流を支えていた。
政を司る貴族、王家や貴族を守る武人、食物を作る農民、日用品を作る職人、物品を交流させる商人、そして民を楽しませる芸人…
均衡を保ちながらこの国は、一見平穏に確かな歴史を刻んでいるかのようにみえた。
しかし早朝から夜半まで働きづめの奴婢たちは、日々黙して働きひたすら耐えていた。
学問を得ることのない彼らにはなんの楽しみもなく、働くことのみの人生だった。
国民の六割を占める彼らが生み出す食物で、王族貴族職人商人は支えられていた。
奴婢の食料は、収穫した食物の中にはなかった。
彼らが住まいのほんの小さな場所に作る芋や野草には、不思議に彼らの体力をぎりぎりで支える力があった。
奴婢たちの秘伝の作物だった。
しかしこの奴婢族の中に知を与える者たちが生まれた。
未来を予知し病を癒し、問題を解決する霊者が生まれた。
霊者が生まれるときは、決まってその家には数匹の白蛇が現れた。
いつのまにか姿を見せた小さな白蛇は、雨風を防ぐだけのあばら家を取り囲むように地を這った。
その家の主は知らないが近隣の者は白蛇を目で見て知る。
やがてその家の女房に霊能を宿す子が生まれるのだ。
白蛇の力宿す者は他の民には生まれない。奴婢族だけに現れる。それが彼らにとっての唯一の恵みだった。
『白蛇の力宿す者』は、病気や問題を抱える奴婢たちを密かに訪ね解決して周った。
バンナイはあらゆることを六人の子どもに伝えたが、奴婢族の信仰する白蛇について彼らに語ることはなかった。彼自身が知らなかったからだ。
バンナイは、六人の子どもたちをどこで手放すかを考えたものの、男の子四人は本人に任せることにしチマナとシーナは治安がよいと聞くところと決め、さらに行く末が一番心配なシ―ナについては森とは反対側にある『中魚の道』に置いた。
その訳は、シ―ナが森を懐かしんで森に向かい足を踏み入れたなら、住処に行きつくどころかたちまちのうちに道に迷いそのまま命を失うことになると慮(おもんぱか)ったからだった。
頂上の宮殿から広がる丘陵には王直属の武人『王の耳』『王の矢』族が暮らしている。
武人の中でも選りすぐりの者たちで作られた王の信厚き者たちだった。
丘から平地になると、『王の頭』と称する十一の貴族が王宮を囲むように広がり、広大な敷地に当主の家族親族とそれを守護する多くの武人家人を召し抱え暮らしていた。
彼らはそれぞれ大通りを境にして広がる領地、そこに暮らす各階層の民を管轄所有していた。
南に下っていくと、高く大きな黒門により貴族領と商人職人町とが仕切られ、その出入りは門番によって守られていた。
貴族領を一歩出ると、商人と職人がひしめくように家を連ね多くの民衆が暮らすにぎやかな街並みが広がっていた。
さらに進めば農地や牧地が扇状に広がっていた。
小作人を束ねるのは田畑を区画しそれぞれを管轄する地主で、小作人を働かせることで地主は税を納めていた。
税は重く、地主たちは小作人から収穫の大半を集め税として所轄の貴族に規定の量を納めると、残りの作物をくすね職人商人に売り金銭に替えていた。
収穫の大半を持っていかれる小作人達はといえば、それぞれ固有の奴婢を持ち田畑近くに住まわせ重労働を強いていた。
海に近くなると、漁民が村を作り元締めが漁師を束ねていた。
またその漁民もそれぞれに多くの奴婢を持ち、海近くに住まわせ重労働をさせていた。
貴族領と商人職人が暮らす街とを隔てるのは、国を横に貫く通りだった。
町人領と農民領との境にも同様に通りが造られていた。
この縦横の通りがこの国の物流を支えていた。
政を司る貴族、王家や貴族を守る武人、食物を作る農民、日用品を作る職人、物品を交流させる商人、そして民を楽しませる芸人…
均衡を保ちながらこの国は、一見平穏に確かな歴史を刻んでいるかのようにみえた。
しかし早朝から夜半まで働きづめの奴婢たちは、日々黙して働きひたすら耐えていた。
学問を得ることのない彼らにはなんの楽しみもなく、働くことのみの人生だった。
国民の六割を占める彼らが生み出す食物で、王族貴族職人商人は支えられていた。
奴婢の食料は、収穫した食物の中にはなかった。
彼らが住まいのほんの小さな場所に作る芋や野草には、不思議に彼らの体力をぎりぎりで支える力があった。
奴婢たちの秘伝の作物だった。
しかしこの奴婢族の中に知を与える者たちが生まれた。
未来を予知し病を癒し、問題を解決する霊者が生まれた。
霊者が生まれるときは、決まってその家には数匹の白蛇が現れた。
いつのまにか姿を見せた小さな白蛇は、雨風を防ぐだけのあばら家を取り囲むように地を這った。
その家の主は知らないが近隣の者は白蛇を目で見て知る。
やがてその家の女房に霊能を宿す子が生まれるのだ。
白蛇の力宿す者は他の民には生まれない。奴婢族だけに現れる。それが彼らにとっての唯一の恵みだった。
『白蛇の力宿す者』は、病気や問題を抱える奴婢たちを密かに訪ね解決して周った。
バンナイはあらゆることを六人の子どもに伝えたが、奴婢族の信仰する白蛇について彼らに語ることはなかった。彼自身が知らなかったからだ。
バンナイは、六人の子どもたちをどこで手放すかを考えたものの、男の子四人は本人に任せることにしチマナとシーナは治安がよいと聞くところと決め、さらに行く末が一番心配なシ―ナについては森とは反対側にある『中魚の道』に置いた。
その訳は、シ―ナが森を懐かしんで森に向かい足を踏み入れたなら、住処に行きつくどころかたちまちのうちに道に迷いそのまま命を失うことになると慮(おもんぱか)ったからだった。