第74話 第四節 シーナ探索 ー探り合いー
文字数 1,493文字
翌日は、朝から屋敷の塀際に待機した。
家族や家中の者の目を盗んで来るのだろう。日があるうちに来られるとは限らない。
なんの手立ても持たないいま、こちらは待つしかないのだ。
待っている時間は長いが、時折りテナンの声が聞こえてくる。
『会おう。みんな集まるんだ。アーサを探してる』
そんな風に送られてくる。
みんなが集まる…
もしそれができるなら、どんな事もできるような気がした。
噂が本当ならすぐにでもシーナを救い出したい。
そして、まだ生きている祖父や叔父、そして長老に会わせてあげたい。
さらに、生まれの経緯や秘めたる尊い役割をシーナ自身が知るようにしてあげたい…
そう思うと胸が熱くなってアーサは拳を握った。
ふと気が付くと目の前にハンナがいた。
「あなたは何者?」
「シーナの仲間です。兄妹みたいなものだと思います。少なくともシーナを大切に思っています。あなたはなぜ僕を呼び止めたのですか?」
「私にも兄がいます。弟もいます。兄と私とは考えが違っていて……あなたは奴婢?」
「奴婢の生まれではないですが、シーナとは兄妹であり仲間です。いまシーナはどうし
ていますか? 元気にしていますか? それは教えてください」
「シーナは……シーナは以前に比べると元気ではありません…」
「コンコンコン」とまた内側からの連絡があり、ハンナはそそくさと屋敷に戻っていった。
その後、アーサは毎日ハンナを待ち、会話は短いながら少しずつ互いの本音を伝え合うようになっていった。
数日して、ハンナはついに言った。
「シーナを救ってあげて。兄はシーナを盾にして自分の立身出世を目論んでいます。王家の姫と婚姻を結び宮中でのし上がるつもりなの。病に侵されている弟にシーナの歌を聴かせるつもりで私がシーナを連れてきたの。それなのに、シーナに優しい言葉をかけるなとか、もしお前がシーナを逃がしたらただではおかないとか、私にもそういうことを言うようになって、兄は人が変わってしまった…
兄は宮中に行くときは必ずシーナを伴っているし、屋敷にいるときは監禁していつも目の届くところに置くようにしているの。シーナが逃げたり誰かに奪われないように警備を厚くしているの。シーナは生きる気力を失っている。歌も歌えなくなって食事もあまり摂っていないようなの。いまは私もシーナに声をかけることも近づくこともできない…」
「わかりました。ありがとう。やっとあなたの本音が聞けました。あなたがいれば少なくともシーナの命が奪われるようなことはない。待っていてください。救い出します。
僕たちは、生まれてはいけない年の子どもです。いま十五歳です。隠されて育ちました。仲間を集めて必ずシーナを救い出しに来ます。ハンナさん、僕はいったんここを離れます。そして仲間を集めることにします。仲間も集まろうとしているみたいなんだ…」
最後は独り言のような呟きだった。
「そうね。私もこれが最後だと思って来たの。兄が私を監視し始めてるようなの」
「それならもう戻った方がいい」
アーサはハンナのことが急に心配になり、慌ててハンナの背中を戸口の方にそっと押した。
ハンナは初めてふっと笑い
「いまは大丈夫よ。来客中だから。でも供の者も合図を送るのに気苦労が多いようなのでやはりこれが最後。ではアーサさん!」
「はい。ハンナさん」
互いが腹を割って話したことで二人の距離は縮まり、互いの胸に信頼が生まれていた。
アーサは中浜宗家の屋敷の裏手に広がる林を抜けだし、繰り返し頭に送られてくるテナンの言葉と自分の直感を信じて、『中魚の道』の商人街に向かって走り出した。
家族や家中の者の目を盗んで来るのだろう。日があるうちに来られるとは限らない。
なんの手立ても持たないいま、こちらは待つしかないのだ。
待っている時間は長いが、時折りテナンの声が聞こえてくる。
『会おう。みんな集まるんだ。アーサを探してる』
そんな風に送られてくる。
みんなが集まる…
もしそれができるなら、どんな事もできるような気がした。
噂が本当ならすぐにでもシーナを救い出したい。
そして、まだ生きている祖父や叔父、そして長老に会わせてあげたい。
さらに、生まれの経緯や秘めたる尊い役割をシーナ自身が知るようにしてあげたい…
そう思うと胸が熱くなってアーサは拳を握った。
ふと気が付くと目の前にハンナがいた。
「あなたは何者?」
「シーナの仲間です。兄妹みたいなものだと思います。少なくともシーナを大切に思っています。あなたはなぜ僕を呼び止めたのですか?」
「私にも兄がいます。弟もいます。兄と私とは考えが違っていて……あなたは奴婢?」
「奴婢の生まれではないですが、シーナとは兄妹であり仲間です。いまシーナはどうし
ていますか? 元気にしていますか? それは教えてください」
「シーナは……シーナは以前に比べると元気ではありません…」
「コンコンコン」とまた内側からの連絡があり、ハンナはそそくさと屋敷に戻っていった。
その後、アーサは毎日ハンナを待ち、会話は短いながら少しずつ互いの本音を伝え合うようになっていった。
数日して、ハンナはついに言った。
「シーナを救ってあげて。兄はシーナを盾にして自分の立身出世を目論んでいます。王家の姫と婚姻を結び宮中でのし上がるつもりなの。病に侵されている弟にシーナの歌を聴かせるつもりで私がシーナを連れてきたの。それなのに、シーナに優しい言葉をかけるなとか、もしお前がシーナを逃がしたらただではおかないとか、私にもそういうことを言うようになって、兄は人が変わってしまった…
兄は宮中に行くときは必ずシーナを伴っているし、屋敷にいるときは監禁していつも目の届くところに置くようにしているの。シーナが逃げたり誰かに奪われないように警備を厚くしているの。シーナは生きる気力を失っている。歌も歌えなくなって食事もあまり摂っていないようなの。いまは私もシーナに声をかけることも近づくこともできない…」
「わかりました。ありがとう。やっとあなたの本音が聞けました。あなたがいれば少なくともシーナの命が奪われるようなことはない。待っていてください。救い出します。
僕たちは、生まれてはいけない年の子どもです。いま十五歳です。隠されて育ちました。仲間を集めて必ずシーナを救い出しに来ます。ハンナさん、僕はいったんここを離れます。そして仲間を集めることにします。仲間も集まろうとしているみたいなんだ…」
最後は独り言のような呟きだった。
「そうね。私もこれが最後だと思って来たの。兄が私を監視し始めてるようなの」
「それならもう戻った方がいい」
アーサはハンナのことが急に心配になり、慌ててハンナの背中を戸口の方にそっと押した。
ハンナは初めてふっと笑い
「いまは大丈夫よ。来客中だから。でも供の者も合図を送るのに気苦労が多いようなのでやはりこれが最後。ではアーサさん!」
「はい。ハンナさん」
互いが腹を割って話したことで二人の距離は縮まり、互いの胸に信頼が生まれていた。
アーサは中浜宗家の屋敷の裏手に広がる林を抜けだし、繰り返し頭に送られてくるテナンの言葉と自分の直感を信じて、『中魚の道』の商人街に向かって走り出した。