第75話 第一節 集まり ー仲間ー
文字数 2,395文字
バンナイをサナのもとに残し、テナンとチマナは東に向かった。
テナンは、サナから聞かされたことを話した。
『中魚の道』に差し掛かるとテナンはいきなり走り出した。
チマナは慌ててテナンを追った。
追いつくと「あんたねぇ、いきなり走るってどういうことよ。一言言いなさいよ、それが礼儀ってもんでしょう。それとも私に勝とうとでもしてるの?」息を切らしながらもチマナは言いたいことは全て捲し立てた。
「チマナ、ごめん。アーサがそばに来てる。気配がするんだよ。消えないうちに気配を掴まえたいんだ」
テナンも息を切らしながら、あちこちに注意を払いながら走った。
「わかった、ついていく」
そう言いながら、時折りテナンを抜いては振り返って待った。
「そんなことで勝ち負けを決めても意味ないだろ! それに俺はまだ病み上がりだ。回
復したら負けてないし」
テナンは応じた。
二人は同時に止まった。
道のど真ん中に、アーサが立っていて真正面から二人を見ていた。
テナンは走り出しアーサに飛びついた。
つられてチマナも続きアーサとテナンに飛びついた。
三人は離れると道の端に寄り、話ができる木陰を見つけ腰をおろした。
「どうして俺たちをすぐ見つけられたんだ?」
テナンは訊いた。
「あんなに恥ずかしげもなく大きな声でけんかしながら走ってきたら、目立ってすぐにわかるさ」とアーサは言った。
テナンは肩を落とし「俺が期待していた答えとは違う…」とうなだれた。
「恥ずかしげもなく」という言葉が気に障ったのかチマナはアーサの肩を小突き、アーサは痛さで顔を歪めた。
「ほら、余計なことを言うから」
うなだれていたテナンはそう言って二人を見て笑った。
チマナもアーサも自然に笑った。
三人は会えたことに喜び安心し興奮し、何かといっては笑った。
森を出てからこんなに笑ったことがあっただろうか。
森にいたときはさっきみたいなやりとりばかりしていたが、それをいまできていることが信じられなかった。
チマナに小突かれたところを擦りながら「最近テナンの声が頭の中でよく聞こえてきたんだけど、もしかするとテナンがやったの?」と訊いた。
「この二人は妙にわかり合っちゃうのよね。相変わらずだね、アーサ」とチマナはからかい「それにしてもアーサ、なんだか逞しくなったみたい」と続けた。
少し照れたアーサは「で、それはそれとしてテナン、どうして僕の頭に君の声が聞こえてきたんだ?」
「思いを送る術を使えるようになったんだ。母さんに教えてもらった」
「母さん?」
アーサはびっくりしてテナンに掴みかかった。
「ちょっと待て! いま話すから待ってよ」とアーサの腕を振りほどきながら言った。
少し落ち着くと、それぞれの身に起きたことを簡単に伝え合った。
サナについてテナンは事細かに丁寧に話し、アーサはずっと腕を組みながら一つひとつうなずきながら聞いていた。
アーサに伝えたことでテナンは肩の荷が軽くなったような気がしていた。
「覚えているうちにアーサに話せて良かったぁ。これで俺が忘れても大丈夫だ。それでさアーサ。伝説の続きの『地は源に還る』とはどういうことだ?」
テナンの問いにアーサはしばらく考えてから「それはもともとの主にこの奪われた地が戻されるということだと思う。この地は、いまは奴婢として使役されているこの地の民たちのもの。攻めてきた王家の軍と人々に支配されて何百年も辛い思いを強いられてきたんだ。その地をもともとの民たちに還す時が来た、ということなんだと思う」と言った。
「どんなに苦しくても、争うことが嫌いな奴婢たちは、黙々と働いてこの国を支えてくれてたのね。それなのにあの王は戦いの場に連れて行こうとしていた。隣国に攻め入るために。あの王のために十五年前にはたくさんの赤子が命を落としている。私たちきっとその赤子達の代表なんだよ」チマナは言った。
三人は、場所を変えて近くの森に入ると、ゆっくりと話し合った。
事の詳細についてアーサはしっかりと尋ねてきたので、テナンもそれにより記憶を整理し、心に刻み付けることができた。
「私、鷹を使える」とチマナが言った。
「え? なにそれ? 嘘でしょ?」
テナンは驚いて声が裏返った。
「あら、ご不満かしら? テナンもなんだかすごく逞しくなったなぁと思っていたら、その顔は何? 一気に森にいたときに戻ったようね。このやきもち焼き!」
「うるさい! 俺だって鷹使いになりたくて母さんにずっと頼んでたんだ! なのになんでチマナが!」
「出た! 私たちに内緒で母さんにそんなこと頼んでたんだ。初めて知った。それで母さんは?」
「笑うだけで何も教えてくれなかった」
テナンは頬を膨らませて言った。
「じゃ、私も笑ってやる。あはははははっ」
「なんだよー」
テナンとチマナは、あの頃に帰ったようにじゃれ合って最後はテナンが地に突っ伏した。
アーサは高みの見物を決め込んでいたが、以前のように知らない間に巻き込まれて気が付くとアーサも組み敷かれていた。
チマナは息を整えながら「つまりね、私は誰とでも連絡が取れるということ。誰かの身に何か起こったら他のみんなに知らせを届けることができるわ」と胸を張った。
チマナは、ハンガンとヤシマに自分がアーサ、テナンと再会したことを知らせるため鷹を呼び書面を作り、それを鷹に運ばせた。
その様子をテナンは羨ましそうに眺めていた。
ハンガンは皆に何かあったときに還る場所を用意しておくため一人『おそろしの森』に留まり生活していた。
ヤシマの方は、いまの不安定な世情を知るため再び雇い主カムルのところに戻り、情報を集めながら用心棒の仕事をしていた。
二人はそれぞれ知らせを受け取り、数日後、ヤシマ、ハンガン、チマナ、アーサ、テナンの五人は演舞場に集合した。
テナンは、サナから聞かされたことを話した。
『中魚の道』に差し掛かるとテナンはいきなり走り出した。
チマナは慌ててテナンを追った。
追いつくと「あんたねぇ、いきなり走るってどういうことよ。一言言いなさいよ、それが礼儀ってもんでしょう。それとも私に勝とうとでもしてるの?」息を切らしながらもチマナは言いたいことは全て捲し立てた。
「チマナ、ごめん。アーサがそばに来てる。気配がするんだよ。消えないうちに気配を掴まえたいんだ」
テナンも息を切らしながら、あちこちに注意を払いながら走った。
「わかった、ついていく」
そう言いながら、時折りテナンを抜いては振り返って待った。
「そんなことで勝ち負けを決めても意味ないだろ! それに俺はまだ病み上がりだ。回
復したら負けてないし」
テナンは応じた。
二人は同時に止まった。
道のど真ん中に、アーサが立っていて真正面から二人を見ていた。
テナンは走り出しアーサに飛びついた。
つられてチマナも続きアーサとテナンに飛びついた。
三人は離れると道の端に寄り、話ができる木陰を見つけ腰をおろした。
「どうして俺たちをすぐ見つけられたんだ?」
テナンは訊いた。
「あんなに恥ずかしげもなく大きな声でけんかしながら走ってきたら、目立ってすぐにわかるさ」とアーサは言った。
テナンは肩を落とし「俺が期待していた答えとは違う…」とうなだれた。
「恥ずかしげもなく」という言葉が気に障ったのかチマナはアーサの肩を小突き、アーサは痛さで顔を歪めた。
「ほら、余計なことを言うから」
うなだれていたテナンはそう言って二人を見て笑った。
チマナもアーサも自然に笑った。
三人は会えたことに喜び安心し興奮し、何かといっては笑った。
森を出てからこんなに笑ったことがあっただろうか。
森にいたときはさっきみたいなやりとりばかりしていたが、それをいまできていることが信じられなかった。
チマナに小突かれたところを擦りながら「最近テナンの声が頭の中でよく聞こえてきたんだけど、もしかするとテナンがやったの?」と訊いた。
「この二人は妙にわかり合っちゃうのよね。相変わらずだね、アーサ」とチマナはからかい「それにしてもアーサ、なんだか逞しくなったみたい」と続けた。
少し照れたアーサは「で、それはそれとしてテナン、どうして僕の頭に君の声が聞こえてきたんだ?」
「思いを送る術を使えるようになったんだ。母さんに教えてもらった」
「母さん?」
アーサはびっくりしてテナンに掴みかかった。
「ちょっと待て! いま話すから待ってよ」とアーサの腕を振りほどきながら言った。
少し落ち着くと、それぞれの身に起きたことを簡単に伝え合った。
サナについてテナンは事細かに丁寧に話し、アーサはずっと腕を組みながら一つひとつうなずきながら聞いていた。
アーサに伝えたことでテナンは肩の荷が軽くなったような気がしていた。
「覚えているうちにアーサに話せて良かったぁ。これで俺が忘れても大丈夫だ。それでさアーサ。伝説の続きの『地は源に還る』とはどういうことだ?」
テナンの問いにアーサはしばらく考えてから「それはもともとの主にこの奪われた地が戻されるということだと思う。この地は、いまは奴婢として使役されているこの地の民たちのもの。攻めてきた王家の軍と人々に支配されて何百年も辛い思いを強いられてきたんだ。その地をもともとの民たちに還す時が来た、ということなんだと思う」と言った。
「どんなに苦しくても、争うことが嫌いな奴婢たちは、黙々と働いてこの国を支えてくれてたのね。それなのにあの王は戦いの場に連れて行こうとしていた。隣国に攻め入るために。あの王のために十五年前にはたくさんの赤子が命を落としている。私たちきっとその赤子達の代表なんだよ」チマナは言った。
三人は、場所を変えて近くの森に入ると、ゆっくりと話し合った。
事の詳細についてアーサはしっかりと尋ねてきたので、テナンもそれにより記憶を整理し、心に刻み付けることができた。
「私、鷹を使える」とチマナが言った。
「え? なにそれ? 嘘でしょ?」
テナンは驚いて声が裏返った。
「あら、ご不満かしら? テナンもなんだかすごく逞しくなったなぁと思っていたら、その顔は何? 一気に森にいたときに戻ったようね。このやきもち焼き!」
「うるさい! 俺だって鷹使いになりたくて母さんにずっと頼んでたんだ! なのになんでチマナが!」
「出た! 私たちに内緒で母さんにそんなこと頼んでたんだ。初めて知った。それで母さんは?」
「笑うだけで何も教えてくれなかった」
テナンは頬を膨らませて言った。
「じゃ、私も笑ってやる。あはははははっ」
「なんだよー」
テナンとチマナは、あの頃に帰ったようにじゃれ合って最後はテナンが地に突っ伏した。
アーサは高みの見物を決め込んでいたが、以前のように知らない間に巻き込まれて気が付くとアーサも組み敷かれていた。
チマナは息を整えながら「つまりね、私は誰とでも連絡が取れるということ。誰かの身に何か起こったら他のみんなに知らせを届けることができるわ」と胸を張った。
チマナは、ハンガンとヤシマに自分がアーサ、テナンと再会したことを知らせるため鷹を呼び書面を作り、それを鷹に運ばせた。
その様子をテナンは羨ましそうに眺めていた。
ハンガンは皆に何かあったときに還る場所を用意しておくため一人『おそろしの森』に留まり生活していた。
ヤシマの方は、いまの不安定な世情を知るため再び雇い主カムルのところに戻り、情報を集めながら用心棒の仕事をしていた。
二人はそれぞれ知らせを受け取り、数日後、ヤシマ、ハンガン、チマナ、アーサ、テナンの五人は演舞場に集合した。