第7話 第三節 学びを求めて ー学問ー
文字数 1,556文字
アーサは知りたかった、自分が何者なのかを。
『王の頭』の出であることはバンナイから聞いていた。
国の大方の仕組みも人々の有体も、おやじ殿から教えてもらう世界はワクワクするものだった。
もしあの王命が下されることなく実の親の元で過ごしたならば、自分はいまいったい何をしているのだろう。
それは見果てぬ夢、もう思うまい。
とにかくこの国のことを知りたい…
もっと深くもっと広く。
バンナイとサナが外の世界から持ち込んでくれるわずかな本は、王の偉大さを称えることに終始する内容で、王族や貴族の意図が大きく働いた読み物ばかりだった。
おやじ殿から聞く奴婢の暮らしは、悲惨なものだった。
なぜそのような扱いを受けなければならないのか、虐げる側はなぜそのようなことを行うのか、ずっと疑問に思っていた。
そして、やがては奴婢のことを知り、調べ、力になりたいとも思っていたが、それはまだ世界の大半のことを知らない自分にはとてつもなく大変なことだとわかっていた。
だから、まず学べるところを探し、この国の歴史を調べ伝説を学び神話を知ることにしよう。
やがては調べ尽くして真実だけを伝える本を作りたい。
アーサの夢は大きく膨らんだ。
いつまでも森にいてはできないことだ。
生きることを許されない僕たちだからこそ、危険の中に身をおいてでも学問をしなければならない。
きっと想像もできないような深遠な世界があるのだ。
アーサは、働きながら学べるところを求めてどこへでも行くつもりだった。
しかし、何日も何日も歴史を学ばせてくれる所を訪ねて回ったが、道行く誰に聞いても「知らない」「わからない」「なんだ、それ?」としかめっ面をされたり軽くあしらわれた。
中には露骨に上から下まで嘗めまわすように見られ「お前、頭おかしいのか?」と言われ突き飛ばされた。
商人街でも職人町でも、アーサに関心を持ち話を聞いてくれる者は一人としていなかった。
なかには近づくだけで逃げようとするものまで現れた。
そのうち、学びたいという貧しい若者が通りに出没することを聞きつけてか、自ら近寄ってきていきなり殴りつけてくる者まで出てきた。
「生意気なんだ、お前どこの者だ。奴婢の分際で。村に帰れ。穢れる。お前ごときが何が学問だ!」
不意をつかれよろけたアーサを男は散々蹴って去って行った。
その日以来アーサは『学び』という言葉を封じた。
多くの者たちの言から、学問は貴族の子弟が成すもので、武人は武人の、職人は職人の、商人は商人の、そして農民は農民のそれぞれの相伝による知識の伝達が主であることがわかった。
わずかにそれぞれの身分が共通して読める本は、王や王族を敬う意図で作られたものばかりのようだった。
そんな中でおやじ殿が、森から出た後六人が生きていく上で必要なことはかなり細かく伝えてくれていたことにアーサは改めて気付かされた。
ここまで学びが王族や貴族に限られたものだとは…
アーサの手持ちの木の実はもう尽きていた。
そこここの森に入っては、木の実を口にし小川の水を飲んで凌いできたが、これからどう生きればよいというのだ。
精も根も尽き果てていた。
アーサは、寝泊まりする場所を求め、人目につかない森の奥に入り、傷だらけの心と身体を木に横たえた。
出自からすればいま頃学んでいたんだ…
初めて悔しさがこみ上げ唇を噛みしめた。
学べるところを求めてこの国の西の果て『西田の道』に来ている。
さらに行けば砂漠地帯だ。
殴られ蹴られて痛む胸、腹、足、腕など全身を摩りながら、おやじ殿が目に浮かぶ。
どのようにあれだけの知識を身に着けたのだろう。
諸国を旅して人の口に耳を聳(そばだ)てたのだろうか…
そして、心身の過労からアーサは深い眠りに落ちていった。
『王の頭』の出であることはバンナイから聞いていた。
国の大方の仕組みも人々の有体も、おやじ殿から教えてもらう世界はワクワクするものだった。
もしあの王命が下されることなく実の親の元で過ごしたならば、自分はいまいったい何をしているのだろう。
それは見果てぬ夢、もう思うまい。
とにかくこの国のことを知りたい…
もっと深くもっと広く。
バンナイとサナが外の世界から持ち込んでくれるわずかな本は、王の偉大さを称えることに終始する内容で、王族や貴族の意図が大きく働いた読み物ばかりだった。
おやじ殿から聞く奴婢の暮らしは、悲惨なものだった。
なぜそのような扱いを受けなければならないのか、虐げる側はなぜそのようなことを行うのか、ずっと疑問に思っていた。
そして、やがては奴婢のことを知り、調べ、力になりたいとも思っていたが、それはまだ世界の大半のことを知らない自分にはとてつもなく大変なことだとわかっていた。
だから、まず学べるところを探し、この国の歴史を調べ伝説を学び神話を知ることにしよう。
やがては調べ尽くして真実だけを伝える本を作りたい。
アーサの夢は大きく膨らんだ。
いつまでも森にいてはできないことだ。
生きることを許されない僕たちだからこそ、危険の中に身をおいてでも学問をしなければならない。
きっと想像もできないような深遠な世界があるのだ。
アーサは、働きながら学べるところを求めてどこへでも行くつもりだった。
しかし、何日も何日も歴史を学ばせてくれる所を訪ねて回ったが、道行く誰に聞いても「知らない」「わからない」「なんだ、それ?」としかめっ面をされたり軽くあしらわれた。
中には露骨に上から下まで嘗めまわすように見られ「お前、頭おかしいのか?」と言われ突き飛ばされた。
商人街でも職人町でも、アーサに関心を持ち話を聞いてくれる者は一人としていなかった。
なかには近づくだけで逃げようとするものまで現れた。
そのうち、学びたいという貧しい若者が通りに出没することを聞きつけてか、自ら近寄ってきていきなり殴りつけてくる者まで出てきた。
「生意気なんだ、お前どこの者だ。奴婢の分際で。村に帰れ。穢れる。お前ごときが何が学問だ!」
不意をつかれよろけたアーサを男は散々蹴って去って行った。
その日以来アーサは『学び』という言葉を封じた。
多くの者たちの言から、学問は貴族の子弟が成すもので、武人は武人の、職人は職人の、商人は商人の、そして農民は農民のそれぞれの相伝による知識の伝達が主であることがわかった。
わずかにそれぞれの身分が共通して読める本は、王や王族を敬う意図で作られたものばかりのようだった。
そんな中でおやじ殿が、森から出た後六人が生きていく上で必要なことはかなり細かく伝えてくれていたことにアーサは改めて気付かされた。
ここまで学びが王族や貴族に限られたものだとは…
アーサの手持ちの木の実はもう尽きていた。
そこここの森に入っては、木の実を口にし小川の水を飲んで凌いできたが、これからどう生きればよいというのだ。
精も根も尽き果てていた。
アーサは、寝泊まりする場所を求め、人目につかない森の奥に入り、傷だらけの心と身体を木に横たえた。
出自からすればいま頃学んでいたんだ…
初めて悔しさがこみ上げ唇を噛みしめた。
学べるところを求めてこの国の西の果て『西田の道』に来ている。
さらに行けば砂漠地帯だ。
殴られ蹴られて痛む胸、腹、足、腕など全身を摩りながら、おやじ殿が目に浮かぶ。
どのようにあれだけの知識を身に着けたのだろう。
諸国を旅して人の口に耳を聳(そばだ)てたのだろうか…
そして、心身の過労からアーサは深い眠りに落ちていった。