第89話 第二節 災禍 ー変化ー

文字数 800文字

 国は二つの大きな災禍によって身分を消失しつつあった。
 地震や大雨の後、崩れた家屋の瓦礫から下敷きになっている人々を救出するのも、怪我人に薬草を与え傷口に塗り込むのも奴婢達だった。
 瓦礫の山を黙々と片付け使えるものを整理し、仮設の小屋を次々造り、水路を整えるのも奴婢達だった。
 道も分からなくなったところを整備し、付近に流れる川から水を引いて水道を敷き実用性も高めたのも…。
 それに有難さを感じる人々の意識は、次第に変化していき奴婢達に挨拶をし暮らし方の相談をするようになっていった。
 一方で、自分達の暮らしをさておいて、献身的に被災した人々のために労力を使う奴婢に対し、自分たちのために働くのは当たり前だ、それが奴婢なのだから…と主張する者も少なからずいた。
 国は意識の上で二つに大きく分かれていった。
 六人はこの変化を良い方へ捉えようとしたが、シーナは、意識の変化は時間がかかることとして見ていた。
 奴婢が配給した芋は、人々の体力を支える上で絶大なる力を発揮した。
 大雨洪水被害の後、この国で生きる全ての人に等しく渡ったのは、奴婢の隅々に渡るまでの徹底した配給に因るものだった。
 奴婢達の知恵を活用しながら、森の木々の実りも食に取り入れ野菜を育てながら慎ましく暮らし始めた人々は、質素ながら生活が整い始めた。
 その一方で、考えを変えない人々は少なくなっていく食料に不安を感じ、より多くより貯めることを望み、再び建物も食料も奪い合うようになった。
 さらに奴婢を認めない人々は、奴婢を受け入れる人々が増えていく動向に逆らい頑なになっていった。
 そして、この芋を独占することを画策し始め意図的に奴婢に歩み寄ると、シーナ畑のありかを探り始めた。
 根こそぎ奪うつもりで人員を集め出した。
 見栄えが悪い芋に見向きもしなかった小作人たちがずかずかと奴婢の住まい近くまで来て、シーナ畑を荒らすようになっていった。


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