第1話 第一節 森が隠した子どもたち ー野望ー
文字数 1,089文字
ヤシマはいつの頃からか、ひとりになることを待ち望むようになっていた。
悔しくはないのか…
自分の出自を知りたくないのか…
その年に生まれたというだけの何の所縁もない我ら六人がともに育つ理由を、おやじ殿と母さんは、成長に合わせるように少しずつ少しずつ話してくれた。
国の仕組みも、親元にいられなかった訳も…
他の五人はそれを運命とあきらめているようだったが、自分は、親が子を失い、子が親や家を失うように仕組んだ者を許せない。
必ず相見えその怒りを当人に向ける、 どうせ拾った命、その王とやらに一矢報いてやろう。
得体の知れない大きな存在に対する怒りは、成長とともに大きくなり堅固になった。
だからしゃにむに身体を鍛えてきた。
見えない強大な敵を想定して、心の奥に秘めた思いを他の五人に知られぬように武術を練習してきた。
おやじ殿は完璧な師範だ。そのおやじ殿を最近では打ち込む方になっていた。
森では獣に出会うことも多かった。
他の 五人は、出会わぬように気をつけて、足跡や糞を調べながら木の実取りをしていた。
しかし自分はあえて獣と出会い、襲われるように仕向けた。
そこでいかに逃げて身をかわすか木切れ一つで身を守るか、相手の動きを読む練習も相手の急所を一撃で打つ練習も積んできたのだ。
ヤシマは一人で行動することが多かった。
小屋に帰ると手足や顔、肩、腹いたるところが傷ついていた。ほとんど毎日だった。
履物を履いても一日で壊れるので、あえて裸足だった。毎日どれほど獣道を走っただろう。
帰路をあえて断ち、動物的勘を鍛えようとして三日帰れないこともあった。
そのときは、養い親であり師でバンナイが必ず見つけ出し迎えてくれた。
バンナイは鷹使いだった。
命尽きる森と思われている森、一度足を踏み入れたなら帰ることはできないといわれる森で、子どもたちを育てることができたのは、バンナイが飼いならしている鷹の力も大きかったのだろう。
子どもを育てる上で、森の中だけでは賄えないもの、服や書物、日用品の類は、バンナイかその妻のサナが夜半に森を出て、数日をかけて街で集め鷹の案内で小屋に戻ってきた。
それを年に二回ほど毎年繰り返していた。
森に入るところ、森を出るところを人に見られることは許されなかった。
闇がすっぽりと森を覆う頃、人知れず足を踏み入れ、手に持つ燭台と鷹の気配と声で歩を進めるのだった。
昼間、大きな荷を背負う男か女が森に向かっている姿をみたなら、人は、『おそろしの森』に又一人無益な挑戦をする者がいると見ただろう。
まして夜であれば、この森に近づく者さえいない。
悔しくはないのか…
自分の出自を知りたくないのか…
その年に生まれたというだけの何の所縁もない我ら六人がともに育つ理由を、おやじ殿と母さんは、成長に合わせるように少しずつ少しずつ話してくれた。
国の仕組みも、親元にいられなかった訳も…
他の五人はそれを運命とあきらめているようだったが、自分は、親が子を失い、子が親や家を失うように仕組んだ者を許せない。
必ず相見えその怒りを当人に向ける、 どうせ拾った命、その王とやらに一矢報いてやろう。
得体の知れない大きな存在に対する怒りは、成長とともに大きくなり堅固になった。
だからしゃにむに身体を鍛えてきた。
見えない強大な敵を想定して、心の奥に秘めた思いを他の五人に知られぬように武術を練習してきた。
おやじ殿は完璧な師範だ。そのおやじ殿を最近では打ち込む方になっていた。
森では獣に出会うことも多かった。
他の 五人は、出会わぬように気をつけて、足跡や糞を調べながら木の実取りをしていた。
しかし自分はあえて獣と出会い、襲われるように仕向けた。
そこでいかに逃げて身をかわすか木切れ一つで身を守るか、相手の動きを読む練習も相手の急所を一撃で打つ練習も積んできたのだ。
ヤシマは一人で行動することが多かった。
小屋に帰ると手足や顔、肩、腹いたるところが傷ついていた。ほとんど毎日だった。
履物を履いても一日で壊れるので、あえて裸足だった。毎日どれほど獣道を走っただろう。
帰路をあえて断ち、動物的勘を鍛えようとして三日帰れないこともあった。
そのときは、養い親であり師でバンナイが必ず見つけ出し迎えてくれた。
バンナイは鷹使いだった。
命尽きる森と思われている森、一度足を踏み入れたなら帰ることはできないといわれる森で、子どもたちを育てることができたのは、バンナイが飼いならしている鷹の力も大きかったのだろう。
子どもを育てる上で、森の中だけでは賄えないもの、服や書物、日用品の類は、バンナイかその妻のサナが夜半に森を出て、数日をかけて街で集め鷹の案内で小屋に戻ってきた。
それを年に二回ほど毎年繰り返していた。
森に入るところ、森を出るところを人に見られることは許されなかった。
闇がすっぽりと森を覆う頃、人知れず足を踏み入れ、手に持つ燭台と鷹の気配と声で歩を進めるのだった。
昼間、大きな荷を背負う男か女が森に向かっている姿をみたなら、人は、『おそろしの森』に又一人無益な挑戦をする者がいると見ただろう。
まして夜であれば、この森に近づく者さえいない。