第42話 第六節 新たな道筋 ー森へー

文字数 1,402文字

 ハンガン、ヤシマ、バンナイ、そして救出された貴族の子女たちがついに森へ入っていった。 鷹が小屋へと案内していく。
 小屋までは貴族の痛み疲れ切った足で三日かかった。安心もあってか一歩進むにも時間がかかったのだ。
 森は先々で食べ物を用意してくれ、森は王の魔の手から貴族の子女たちを覆い隠したのだった。
 小屋についた子女たちは初めて泣いた。父を想い母を想い声を上げて泣いた。
 りりは処刑場で初めて会った兄妹たちに心から謝った。
 自分さえ生まれていなければ身を隠していればこんなことにならなかった…
 しかし兄は言った。
 「父上も母上もとうに覚悟されていた。王は隣国に攻め入るつもりだった。武人には自分の警護をさせ、危険な戦場は奴婢達を向かわせ商人職人からも徴兵するつもりだった。
農夫たちは残して食料には困らないようにするというのが王の考えだったのだ。父は隣国侵攻に反対した。『王の頭』といってもそれは名ばかりで、王は側近の武人と隣国攻めを決め役人である貴族の意見は聞こうとしない。
貴族の中でも、口々に反対を唱えていた者が王の前ではころりと賛成を表明するものが相次いだ。父は反対を真っ先に唱え、それに続く者が消えていき孤立していた。
従兄の御山宗家本家の当主は父に立腹していた。宗家は従弟である父が御山を揺るがす行動をとることを苦々しく思い、王に当家は王に忠誠を誓っていると何度も宮殿に赴き伝えていたようだ。そして親戚であっても何かあれば厳罰にと…」
 そこまで一気に話すと、長男は悔し涙を流した。
 皆、当主の苦しかったであろう胸中を思いながら静かに長男の話に聞き入っていた。
 長男はさらに続けた。
 「あの方が王ではこの国は大変な事になると父はよく言っていた。十五年前の狂気の沙汰とも言える赤子差しだしから自分の運命は決まっていたと…遅かれ早かれ当家はつぶされるとも。父上は、ある日を境に王の性格が変わったと感じたことがあった、そのあと十五年前の赤子を差し出しの命が出されたと言っておられた」
 その話を聞いてバンナイは顔を上げた。
 「性格が変わった? そこは気になる…」
 「王は、預言者から『これから一年の間に生まれる子の中に身の内に青虎を飼う者がいる。その子どもが十五歳になると王の前に現れ王を食らう』と聞いたそうだ。それが赤子の命を奪うという酷たらしい命令になったと聞く。父によればその予言者はその言を放ったのちしばらく投獄されてから斬首されたとのこと。父はその場にいて母が身ごもっていたので、母の妊娠を隠すことを必死で考えたと言っておられた」
 長男はやさしくりりを見た。一同は沈黙した。それを破るように長男は
「りり か。よい名をもらったな。この方たちに出会えたのはお前のおかげだ。新たな生きる道ができたのはお前のおかげだ。この方々三人と父と母三人が我らを生かしてくれたのだ。兄弟一人も欠けることなく。有り難いことだ。大切にしようぞ」と言った。
 「ここで生きていれば、必ずいつか世に戻る日が来ます。その日までどうか仲よくお過ごしください。ここにはハンガンが…」
 バンナイが言いかけたときだった。
 「おやじ殿。『青虎飼う者』のこと知っていたんでしょう。どうして話してくれなかったのですか?」とハンガンが聞いた。
 「サナは子どもたちが知るべき時が来たら知るだろうと言っていたのだ」
 バンナイはサナを想い静かに言った。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み