第69話 第二節 サナとの再会 ー解明ー
文字数 1,793文字
この後、二人は十日をかけて心の読み合いをしていった。
サナは伝えては眠り伝えては眠り、テナンに時間をかけ語っていったのだった。
『テナン、聴いて。
その昔天空にて、病得て苦しむ虎あり。
その病 虎の 身勝手粗暴の振る舞い多くして、神より罰を受けしものなり。
周囲皆その様をみて、笑うなり。
一匹の白蛇現れ、虎に水運ぶなり。
遠き森の青き湧き水 神の御心宿す清水、病癒す力あり。
虎、かの水にて本復す。
虎、白蛇に頭下げるや、身、青く変化するなり。
これは古くから伝わる歌。神話であり伝承。シーナは奴婢村の生まれよ。私が導かれるように一人奴婢村に行くと、夜シーナという芋の畑で赤子を一人で産み落とした母親がいたの。私は子を預かった。それがシーナ』
それからサナはシーナが『白蛇の力宿す者』であること、サナの父があの年に予言をして処刑されたこと、そして演舞会でのことをテナンに話して聞かせた。
演舞会でのできごとは、兄のカンが聞き知ったことをサナに伝え、サナが状況を心に思い浮かべるとその渦中にはヤシマ、ハンガン、チマナ、シーナがいたのだった。
『王は亡くなり予言は果たされた。白蛇に巻かれた歌い手はシーナ。守ろうとして青虎になったのはチマナ』
『どうしてチマナが? チマナも特別な力を持ってるの?』
『いえ、そうではない。テナン、アーサ、ハンガン、ヤシマもチマナもシーナのような特別なものを持つ子どもではないの。それぞれ身分は違っても普通の子よ』
『じゃあ、なぜチマナが? どうしてそんなこと母さんはわかったの?』
『そこでのできごとは兄のカンから聞いたの。チマナがシーナを守ろうとしたことはすぐにわかった。チマナ以外にシーナを助けたいと思う女の子はいない。チマナはそこにいたとわかったの。チマナのシーナを助けたいという強い思いに青虎が乗り移ったの。だから、互いに想い合うあなたたちは誰が青虎になってもおかしくない』
『それにね、シーナはいつも歌を歌っていたでしょ。シーナは、共に生きる者を慕い無心に歌った。その歌はあの森の精霊に清められ神々に捧げる歌になっていたの。あなたたちはシーナの歌を毎日聴いていた。シーナの祝詞で清められたあなたたちは、いつのまにか神々に使われるものになっていたのよ』
『何それ? 母さん、わからないよ。それはどういうこと?』
『神々に使われる者よ、あなたたちは成し遂げなければならない』
『何を?』
『集まるのよ、再び。テナンあなたがみんなを集めるのよ、今こそ』
『母さん、俺たちは何をするの? 何をしなければいけないの?』
『テナン、伝説には続きがあるの。
地に生まれ 森に集いし 六芒星
大地に広がり、縮み縮み縮みしとき
地は源に還る
これはいまは伝説ですらない。まだ起こっていない伝説になるはずの予言なの』
『母さん、その予言は俺たちとどう関係があるの?』
『テナン、わからないの? 六芒星』
『六人ということ? 俺たち六人が六芒星だというの?』
『そうよ、テナン』
『地は源に還るって?』
『そこはね、アーサならその意味を読み解くはずよ』
『テナン、この話をあなたに伝えたから、私は鷹を呼ぶ。私が鷹を呼べばバンナイさんは、鷹が私の居場所へと案内することがわかるはず。チマナも一緒に来るはずよ。チマナやみんなに出会えたときにいま話したことをみんなに話すのよ』
『母さん、母さんが話して、俺には…』
『あなたなのよ、もう覚悟を決めなさい。私はあなたがここに来るとわかっていたから、今日まであなたに伝えるために生きていたの。もう死んでいてもおかしくない』
『母さん…じゃあ、もう一つ教えて。俺たちはなぜ母さんたちに助けてもらえたの? 他の犠牲になった子どもたちとどこが違うの?』
『それは…私たち呪術師がこの世にいるということを知っていた人たち。それがあなたたちの親だった。あのときの親は皆、辛かった。苦しかった。身を切られる思いをした人たち。赤子を差し出さなければ他の家族や親類縁者にも咎めが及ぶ。その中で呪術師のことを知っていてそれに託そうと決意した人たち。あなたに力を貸した人たちが成したようにして私を訪ねた人たち』
『たったそれだけなの? 違いは』
『そう、たったそれだけよ。生まれた場所は、個々散り散りだった』
『母さん?』
数日をかけての語り合いはそこで途絶えた。
サナは伝えては眠り伝えては眠り、テナンに時間をかけ語っていったのだった。
『テナン、聴いて。
その昔天空にて、病得て苦しむ虎あり。
その病 虎の 身勝手粗暴の振る舞い多くして、神より罰を受けしものなり。
周囲皆その様をみて、笑うなり。
一匹の白蛇現れ、虎に水運ぶなり。
遠き森の青き湧き水 神の御心宿す清水、病癒す力あり。
虎、かの水にて本復す。
虎、白蛇に頭下げるや、身、青く変化するなり。
これは古くから伝わる歌。神話であり伝承。シーナは奴婢村の生まれよ。私が導かれるように一人奴婢村に行くと、夜シーナという芋の畑で赤子を一人で産み落とした母親がいたの。私は子を預かった。それがシーナ』
それからサナはシーナが『白蛇の力宿す者』であること、サナの父があの年に予言をして処刑されたこと、そして演舞会でのことをテナンに話して聞かせた。
演舞会でのできごとは、兄のカンが聞き知ったことをサナに伝え、サナが状況を心に思い浮かべるとその渦中にはヤシマ、ハンガン、チマナ、シーナがいたのだった。
『王は亡くなり予言は果たされた。白蛇に巻かれた歌い手はシーナ。守ろうとして青虎になったのはチマナ』
『どうしてチマナが? チマナも特別な力を持ってるの?』
『いえ、そうではない。テナン、アーサ、ハンガン、ヤシマもチマナもシーナのような特別なものを持つ子どもではないの。それぞれ身分は違っても普通の子よ』
『じゃあ、なぜチマナが? どうしてそんなこと母さんはわかったの?』
『そこでのできごとは兄のカンから聞いたの。チマナがシーナを守ろうとしたことはすぐにわかった。チマナ以外にシーナを助けたいと思う女の子はいない。チマナはそこにいたとわかったの。チマナのシーナを助けたいという強い思いに青虎が乗り移ったの。だから、互いに想い合うあなたたちは誰が青虎になってもおかしくない』
『それにね、シーナはいつも歌を歌っていたでしょ。シーナは、共に生きる者を慕い無心に歌った。その歌はあの森の精霊に清められ神々に捧げる歌になっていたの。あなたたちはシーナの歌を毎日聴いていた。シーナの祝詞で清められたあなたたちは、いつのまにか神々に使われるものになっていたのよ』
『何それ? 母さん、わからないよ。それはどういうこと?』
『神々に使われる者よ、あなたたちは成し遂げなければならない』
『何を?』
『集まるのよ、再び。テナンあなたがみんなを集めるのよ、今こそ』
『母さん、俺たちは何をするの? 何をしなければいけないの?』
『テナン、伝説には続きがあるの。
地に生まれ 森に集いし 六芒星
大地に広がり、縮み縮み縮みしとき
地は源に還る
これはいまは伝説ですらない。まだ起こっていない伝説になるはずの予言なの』
『母さん、その予言は俺たちとどう関係があるの?』
『テナン、わからないの? 六芒星』
『六人ということ? 俺たち六人が六芒星だというの?』
『そうよ、テナン』
『地は源に還るって?』
『そこはね、アーサならその意味を読み解くはずよ』
『テナン、この話をあなたに伝えたから、私は鷹を呼ぶ。私が鷹を呼べばバンナイさんは、鷹が私の居場所へと案内することがわかるはず。チマナも一緒に来るはずよ。チマナやみんなに出会えたときにいま話したことをみんなに話すのよ』
『母さん、母さんが話して、俺には…』
『あなたなのよ、もう覚悟を決めなさい。私はあなたがここに来るとわかっていたから、今日まであなたに伝えるために生きていたの。もう死んでいてもおかしくない』
『母さん…じゃあ、もう一つ教えて。俺たちはなぜ母さんたちに助けてもらえたの? 他の犠牲になった子どもたちとどこが違うの?』
『それは…私たち呪術師がこの世にいるということを知っていた人たち。それがあなたたちの親だった。あのときの親は皆、辛かった。苦しかった。身を切られる思いをした人たち。赤子を差し出さなければ他の家族や親類縁者にも咎めが及ぶ。その中で呪術師のことを知っていてそれに託そうと決意した人たち。あなたに力を貸した人たちが成したようにして私を訪ねた人たち』
『たったそれだけなの? 違いは』
『そう、たったそれだけよ。生まれた場所は、個々散り散りだった』
『母さん?』
数日をかけての語り合いはそこで途絶えた。