第80話 第一節 宮廷 ー四面楚歌ー

文字数 1,355文字

 「来たか。待っていた」 
 人垣のずっと先からはっきりとした声が聞こえた。
 人垣が割れ、道ができて二人は先に進んだ。
 人垣は中央に向かい放射状になって、中央に面した武人たちが人物達を囲むように矢を向けていた。剣を構える武人たちも同様に中央に刃を向けていた。
 その先には、テナン、ヤシマ、チマナがいて、その少し先にシーナがサンコの供とサンコに挟まれしっかり捕まえられて立っていた。
 テナン、チマナ、ヤシマが御山宗家の当主の列に追いつくと、すぐに多くの武人達が現れ瞬く間に囲まれ、そのまま大広間に連れていかれたのだった。
 三人を目にしたシーナは驚きでその目は大きく見開かれた。
 会えた喜びは一瞬にして消え、シーナは三人の抜き差しならない状況を察知し恐怖に突き落とされた。
 「さあ、揃ったようだな五人が。御山宗家から連絡が来ていた。全て話は聞いている。
他の貴族にも伝わっている。この娘に特別な力などない。 例えあったとしても、その力を使えないようにするだけだ。お前たちを一人ひとり探すより、勝手に集まってくれれば一度で始末できる。青虎は、予言では王を食らうだったな。その目的は果たしたはずだ。私をではない。お前達十五歳の生き残りを、王命から解いたのは良策だった。お前達は私を浅はかで愚かだと言ったそうだな。どちらが愚かかな。我らは『王の頭』なのだ。頭を働かせるのは我ら貴族の生まれから来るもの。 生き残りが何人いるのかもわからなかったが、御山宗家からの知らせで、シーナを取り戻そうとしていると聞いた。シーナは一生我が家中のために働いてもらう奴婢なのだ。絶対にお前達には渡さぬ。すでに我が家中のものだからな。心配せずとも命は奪わぬ。だから青虎は現れようがない。それよりも先にお前達五人がこの世を去る様をシーナにはじっくり見させてやろう。一人ひとりの泣き叫び苦しむ断末魔の声を聞かせて、私の思い通りに従う方がよいと気付かせてやろう。
 その方、演舞会ではお前と話したな。門番にうまく化けたつもりだろうが、笑止、全てわかっていたぞ。 騙したつもりのお前の間抜け顔が面白かった。さあ、もうおしまいだ。よく来てくれたな。私の宮殿に」
 サンコは、勝ち誇ったように、五人のみならずほかの貴族や武人たちにも響き渡る声で一気にそう言った。
 シーナは、五人の命が奪われると聞くとわなわなと身震いし始めた。
 「シーナ」
 ハンガンが優しく笑顔で呼びかけると、アーサ、テナン、ヤシマ、チマナが笑顔で次々と呼びかけた。
 五人に呼び掛けられたシーナのまなざしに光が戻ってきていた。
 五人は覚悟していた。
 最期にシーナに会えてシーナだけでも生きるのならそれで良い。ハンガンはシーナの笑顔を見たかった。
 それはアーサにテナンにヤシマにチマナに伝わった。
 シーナに五人の思いが伝わった。
 「この期に及んで、五人ともにシーナに呼び掛けるとは呆れた者ども。
 『王の頭』の皆さん! 今日はこの国の繁栄に妨げとなる者六名をこの場で処刑致します。この六名は十五年前、王命により命亡き者のはずでした。そしていままたこの者達は国に仇名す者として現れました。結束して、まずは国の災いとなるものの根を断ちましょうぞ!」
 「おーーーーーー」と武人たちから勇壮な声が上がった。

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