第38話 第三節 眠り ー事故ー 

文字数 758文字

 テナンは、『東林の道』の籠職人ゴンザの妻ハルに会うために東に向かっていた。
 手がかりを得たことで心は弾むが、身体がだるく足取りは重い。
 その日は林に入って夜を過ごした。
 翌日顔に落ちる雨粒で目覚めた。
 身体の冷えとだるさでなかなか起き上がれなかった。
 「この前の雨は何日前だっけ? だいぶ汚れているよな。体も服も雨が洗い流しくれる。さぁ、ハルさんを見つけなくては…」
 やっと身体を起こすとまた歩き出した。
 しばらく行くと何やら前方から地なりのような音が聞こえてきた。
 濛々とした土煙は、最初は小さく見えたがみるみる大きく膨らんでいた。
 「ものすごい数の騎馬隊だ!」
 テナンがそれに気づいた矢先、小さな男の子が道に這い上がってくるのが目の端に映った。
 騎馬隊は轟音を立てながら迫ってくる。
 とっさにテナンは駆け出した。
 もう男の子は目前だ。
 自分の手先が子どもに触れるのを確認すると、後は目の前が真っ暗になり激痛が連続した。
 やがてずーんと闇に落ちていった。
 テナンと小さな男の子を襲ったものは、刑場から逃げ出した貴族を追う『王の矢』の騎馬隊だった。
 『東田の道』で三人の妻を処刑した後、西へ西へと探索の手を延ばしたが、あれから何も見いだせず各隊は焦っていた。
 指揮官は檄を飛ばし、隊は馬に鞭を当て通りを行く人々を蹴散らしながら駆け巡っていたのである。
 行きつ戻りつ四方八方への探索は続いた。
 何頭もの馬に踏みつけられた後のテナンの身体の下には、小さな男の子がいた。
 男の子は、かすり傷を負う程度で後から駆けつけてきた両親に抱き上げられた。
 そしてテナンは、自分を育ててくれた母の声を聞いた。

 『テナン…テナン…私の元に来るのです…』

 え! かあさん? かあさんなの? こんな所にいたんだ! やっと、やっと会えたね…




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