第61話 第一節 絆 ー翌朝ー

文字数 1,036文字

 日が昇り始めてしばらくしてチマナは目を覚ました。
 背中が温かく振り返ると、そこにはヤシマがいた。
 そしてその向こうにハンガン。
 ハンガンは周囲の様子を確認していた。 
 ハンガンと目が合った途端、我慢していたものが堰が切ったように溢れ出し、チマナは子どものように声を上げて泣き始めた。
 その声でヤシマが起きそっとチマナの背中を撫でた。
 ヤシマも泣いていた。
 三人は肩を寄せ合い泣いた。
 子どもの頃仲間五人は身体を寄せ合って眠っていたけれど、ヤシマはいつも自ら離れ一人で寝ていた。
 どこか幼さを残した見慣れた顔に二人ともに精悍さが加わっていた。
 ついこの間まで森で一緒に暮らしていた。
 別れて数カ月、もう二度と会えないのかと思っていたのにこうして会えた。
 この数カ月二人にもいろいろなことがあったのだろう。
 私にもいろいろあったがこんなに嬉しいなんて。
 二人がそばにいることでこんなに幸せを感じるなんて。
 私は寂しかったんだ、ほんとはすごくみんなに会いたかったんだ。
 舞台上でシ―ナを見たとき、どきどきして息が苦しくなった。
 嬉しくて飛んでいきたくて自分を抑えるのに大変だった。
 心配で胸が張り裂けそうになるほどだったシ―ナが手が届きそうなほど近くにいたのだ。
 初めに気がついたのは自分だっただろう。
 最近は舞いながら観客の反応を見ることができるようになっていたから、ずっと下を向いて舞いを見ない子が気になった。
 観客は皆食い入るように自分たちを見るのに、一人だけ全く見ることなく俯く女の子。
 少し上がったその顔はまさしくシーナだった。
 「シ―ナ」
 声が出そうになって慌ててやめた。
 そのうちふと顔を上げたシ―ナと目が合った。
 あのときのシ―ナったら…
 驚きと喜びがこっちにも伝わってきた。
 シ―ナの目から流れ出た同じものが自分からも出ようとしていた。
 けれどそれは人には決して見せてはいけないものだから、必死で止めていた。
 控えの渡りに下がってからも、シ―ナから目を離せずにいた。
 他のことはどうでもよかった。 
 シ―ナが舞台に向かうとき、少しでもシ―ナのそばにいたくてシ―ナの近くにいこうとした。
 シ―ナは観客の目に触れないところで静かに目を閉じ歌い始めた。
 心が震え、涙が止まらなかった。
 後は覚えていない。
 気が付いたらここにいたのだ。あれは夢だったのだろうか。
 切られた激しい痛みは夢の中のものだったの?
 ここにはシ―ナがいない、ア―サもテナンもそしてバンナイも。

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