第28話 第八節 仔細 ー運命ー
文字数 953文字
当主の名なき娘は、早朝見回りに来た家人二人に姿を見られた。
ハンガンが去ったあと部屋に戻ろうとして、足元の資材に躓き転倒し気を失い朝がたになりようやく立ち上がったところだった。
父母が娘がいないことに気づき工事中の現場を見に行ったのは、その一瞬後のことだった。
「いいか、見なかったことにするんだぞ。いいな、決して他言するな」
「はい。承知いたしております」
二人は互いにそう確認しあったが、透き通るほどに白い肌、頬をほのかに桃色に染め一点を見つめる濡れた瞳の尋常ならぬ美しさが、その口を止めさせなかった。
そのときだけではなかった。
一歩も出ることのなかった住まいが損壊し他の部屋に匿われた少女は、格子の囲いがない中で工事の期間少し動いては迷った。
人の目から逃れようにもその動きの鈍さで隠れきれず、少しずつ人の目に映るようになっていた。
少女の存在を隠し続けてきた両親にとって、未曽有の大嵐がもたらした隠し部屋損壊とその余波は彼らの想像を遥かに超えていた。
家人といえど見かけた者の口は、さざ波のようにひたひたと御山宗家を吞み込んでいった。
間もなく『王の耳』の武人たちが屋敷を訪ねてきた。
家族全員が集められ一人ひとり調べられた。
武人たちはさらに奥に踏み入り格子の付いた部屋についに一人の少女を見出した。
当主は他の妻や子ども達に深く詫びた。
家族や家人を多く抱えるだけに、最奥の秘密部屋が壊れても安全な部屋に移すことはできなかった。
昼間は二重壁の間に入り信用できる直近の者に立ちはだからせていた。
夜だけは部屋にいさせた。
修繕のこの時期、夜半に娘が外に出るとは予想できなかった。
いったい娘に何があったのだろう。
自分の立場をわかりすぎるくらいわかる賢い娘だったのに。
大嵐で老木が奥の部屋を直撃したとき当主は胸騒ぎがした。
それなのに万全の備えを怠った自分を当主は悔いた。
十五の歳に青虎を身の内に飼う者が王の前に現れる…
その予言によれば、近々王宮には大事が起こるということだ。
だからそのときが過ぎ、出来事に娘が関与していなければそのまま生かしてあげられる、娘は堂々と陽の光を浴びることができる、当主はそれにかけてずっと隠してきたのだ。
ちょうど十五を迎えたその年に秘密は暴かれた。
ハンガンが去ったあと部屋に戻ろうとして、足元の資材に躓き転倒し気を失い朝がたになりようやく立ち上がったところだった。
父母が娘がいないことに気づき工事中の現場を見に行ったのは、その一瞬後のことだった。
「いいか、見なかったことにするんだぞ。いいな、決して他言するな」
「はい。承知いたしております」
二人は互いにそう確認しあったが、透き通るほどに白い肌、頬をほのかに桃色に染め一点を見つめる濡れた瞳の尋常ならぬ美しさが、その口を止めさせなかった。
そのときだけではなかった。
一歩も出ることのなかった住まいが損壊し他の部屋に匿われた少女は、格子の囲いがない中で工事の期間少し動いては迷った。
人の目から逃れようにもその動きの鈍さで隠れきれず、少しずつ人の目に映るようになっていた。
少女の存在を隠し続けてきた両親にとって、未曽有の大嵐がもたらした隠し部屋損壊とその余波は彼らの想像を遥かに超えていた。
家人といえど見かけた者の口は、さざ波のようにひたひたと御山宗家を吞み込んでいった。
間もなく『王の耳』の武人たちが屋敷を訪ねてきた。
家族全員が集められ一人ひとり調べられた。
武人たちはさらに奥に踏み入り格子の付いた部屋についに一人の少女を見出した。
当主は他の妻や子ども達に深く詫びた。
家族や家人を多く抱えるだけに、最奥の秘密部屋が壊れても安全な部屋に移すことはできなかった。
昼間は二重壁の間に入り信用できる直近の者に立ちはだからせていた。
夜だけは部屋にいさせた。
修繕のこの時期、夜半に娘が外に出るとは予想できなかった。
いったい娘に何があったのだろう。
自分の立場をわかりすぎるくらいわかる賢い娘だったのに。
大嵐で老木が奥の部屋を直撃したとき当主は胸騒ぎがした。
それなのに万全の備えを怠った自分を当主は悔いた。
十五の歳に青虎を身の内に飼う者が王の前に現れる…
その予言によれば、近々王宮には大事が起こるということだ。
だからそのときが過ぎ、出来事に娘が関与していなければそのまま生かしてあげられる、娘は堂々と陽の光を浴びることができる、当主はそれにかけてずっと隠してきたのだ。
ちょうど十五を迎えたその年に秘密は暴かれた。